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「少子高齢化」時代の戦争( 2/3)- ロシアの人口動態と徴兵

ロシアの人口動態と徴兵

クリミア戦争終結から166年後の2022年にロシアがウクライナに侵攻し、戦闘は続いています。内戦の要素もありますし、ロシア・米国の代理戦争の様相も呈していて、西側からの報道だけでは、いつものことながら「私たちは何も知らない。」

 さて報道で、これまでの戦争と明らかに異なるのは戦闘員の年齢です。ウクライナの人口4390万人のうち、女性と子ども・高齢者など、1000万人が国外へ避難しましたが、18才から60才までの男性の退去は禁止されました。国土防衛のための戦闘員です。

 一方のロシア側のこれまでの徴兵年齢は18才から27才と言われていますから、クリミア戦争時代と変わらないでしょう。どの戦争も常に「すぐ終わる」見込みで開戦しますが、そうではないことが多いのは歴史が示しています。侵攻から半年ほどで、ロシアではこの戦争のための一回目の動員令が出されました。年齢は18才から50才。

 将校は両国ともにもっと高齢の職業軍人もいますが、いわゆる一兵卒の最高年齢が60才と50才なのです。ロシアは2023年1月現在、通常制度の徴兵年齢を「21才から30才」に引き上げる法案が議会を通り、あとは大統領の署名待ちと報道されています。もし、われらが自民大本営なら、戦闘員の補充を目的に上限年令だけ引き上げるでしょうが、ロシアは下限も21才に引き上げています。 戦争終結後の人口構成まで考えているのでしょうか。そうだとしたら苦戦が伝えられる戦争の中でも冷静で緻密な戦略です。

現状では、プーチン大統領の功績など聞きたくない人が多いでしょうが、「坊主と袈裟」は分けて考えると、見えるものがあります。2000年の大統領就任から今日までで、ロシアの人口は回復し出生数も増加傾向です。プーチンの大統領就任期間と少なくとも時系列は一致しているのです。

 ソビエト連邦ソ連)末期の1980年代から、通貨ルーブルは下落の一途でしたから、国内経済は相当に悪化していたのでしょう。出生率も下がり続け、平均寿命も短縮していました。そしてついに91年にソ連は崩壊し、国土の主要部分をロシアが引き継ぎました。その後も90年代を通して経済はマイナス成長が続き、出生数も平均寿命も下がり続けたのです。ソ連時代の年金額で暮らす高齢者は、インフレによる物価高でバス代も払えず、たいていの距離なら歩いて移動しているといわれました。

 寿命の短縮は特に男性に顕著で、アルコール依存症や自殺が超過死亡数の要因とされました。こうした状況に見切りをつけるように、毎年70万人が国外へと流出しました。主な出先は米国と欧州です。高度な教育を受けた人々に対しては、たいていの国々が門戸を開いていますから、「頭脳の流出」といわれました。

 この絶望の中に現れたのが、ロシア人にしては小柄で、髪の毛も風前の灯といった風体で、当時は頼りなく見えたトッチャン坊やのウラジミール・プーチンでした。

 しかし彼はロシアのエースか、またはジョーカーなのか、切り札としての手腕をみせました。豊富な地下資源を原資に経済の立て直しに着手します。東欧・西欧へ天然ガスのパイプラインを構築しました。日本ともサハリン1・2と経済協力を進めたのです。

 それと同時に出生数回復にも力を入れます。その政策は、女性に強面で「産むか?シベリアか?」と銃を付きつけるイメージがマスコミによって植え付けられていますが、日本でいう「子育て手当」を支給したのです。

 彼は「ロシアは私の美しきもの」と言っていますから、ロシアの「父ちゃん」になりたいのかも知れません。同じことをしても成果がまったく出ない日本と違うのは、増税してそこから事務費を差し引いて、手当として渡す。言うなれば左のポケットから6千円取って、右のポケットに5千円入れる方式ではなく、地下資源輸出の利益を分配したということです。

日本の政治家は人気者になりたい、米国首脳から褒められたい、子どもに跡目を相続させたい、そんなメンタリティーかも知れません。

ロシアの人口ピラミッド(2020年 データ:国連 社会経済部)


 人口ピラミッドを見ても、90年代は現在の日本と同じく、底辺が細くなりましたが、そこからゆるやかな末広がりに変化しています。しかしそれでも人口の重心は30才代にあり、兵役につかせる青年層は薄いのです。

今回の戦争によるロシア側の死傷者について、アメリカ戦争研究所は、2023年1月現在10万人とコメントしていますが、ロシアの敵国としてのバイアスがあるのと戦時中であり実際の数字はわかりません。

 さて、いつの時代でも戦争の道具として扱われる、どちら側の兵士にも家族や友人があり、戦死は本人の無念はもとより、残されたそれぞれの耐え難い精神的苦痛になります。少子化となれば、それはますます強く、反戦厭戦気運を増長します。そしてついには、「人殺し」という政権への批判・罵倒が高まるのです。

そこで登場するキーワードが「無人」です。ミサイル・ドローンを始め、戦闘機よりも注目されています。産業化された戦争ですから、軍需産業は在庫処分をして業績が上がれば良いのです。米国ではその利益から堂々と政治献金する。支払いは敗戦国と自国の納税者、ウクライナの場合は戦勝しても、米国議会が債権放棄しない限り、リース・レント法での代金請求が来るでしょう。すべて無償支援ではないのです。

クリミア戦争が第1次世界大戦の「予告編」であったように(3)、これから本格的に第3次世界大戦として起こるかもしれない、少子化時代の「経営された戦争」の予告編が、現在のロシア・ウクライナ戦争かも知れません。