少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

日本に見切りをつけた?若者たち

ウクライナ化する日本の人口動態 

 皮肉か本心からか「世界で最も成功している社会主義国」と言われることがある日本も、人口動態からみますと、ついに存亡の岐路に立っているようです。ただ国家体制が崩壊しても日本列島が沈没するわけではありません。新しい体制ができるだけのことです。

 ではその人口動態をみてみましょう。少し前の話ですが、2018年の出生数が86万余人になりました。前年の91万余人から5万3000人の減少です。それまでの10年間もわずかな増減を繰り返しながらも減少トレンドでしたが、この減少はそれまでのトレンドとは不連続ともいえる激減だったのです。「86万ショック」ともささやかれました。それが2022年はさらに「79万ショック」になりました。こうショックが続くと耐性ができてしまいます。

 しかしもうひとつ新たなショックがありました。2022年の平均寿命が下がったのです。男性で0.09才・女性で0.14才の短縮です。近年で寿命が下がるのは東日本大震災の被害があった2011年以来のできごとでした。一方の出生数は、震災の2011年が105.7万であったのに対して、翌年は103.7万人でした。確かに減少ではありますが、それまでのトレンドの範囲内ともいえます。 

 今回の平均寿命の低下は、新型コロナ禍の影響が強いでしょう。医療体制は現場の実感としても相当に混乱していました。しかし出生数の方は、「医療体制の混乱」では説明がつきません。これは「コロナ騒動」ともいうべき、社会・経済活動の停滞が大きく影響したでしょう。新型コロナによる健康被害よりも、「騒動」の方が社会を混乱させたのでしょう。つまり感染防止効果の根拠もなくノリで騒ぎ過ぎたのです。(ネジを巻いたのはどんな勢力なのでしょう。)

 ところで、この平均寿命と出生数の同時減少が一過性ならパンデミックで説明できるでしょうが、定着するようだと、ウクライナの後を追うことになります。

 ここに来て、外務省の海外在留邦人調査結果を基にした「日本人、静かに進む海外流出」という見出しの報道が流されました。それによりますと、2020年現在、新型コロナ禍で留学や海外駐在などの長期滞在者が減る一方で、よりよい生活や仕事を求めた「永住者」が前年度比で2万人増えています。

 この傾向は20年前からであり、10年前と比べても14万人増えています。しかも出生数に直接影響する女性が62%で、主な行き先は北米・欧州・オセアニアです。職業や年齢など、そのほかの属性は公表されていません。主な出先となっている国々の永住権は簡単に取得できるものではあません。

すなわち「現代の奴隷制度」だと、国連や米国から批判された「技能実習制度」という低賃金労働者の呼び込みに力を入れる一方で、国内からは「頭脳の流出」が静かに進んでいるわけです。

 さらに永住権やワーキングホリデーなど、面倒な手続きをすることなく、「海外バイト」という軽いノリもネット上でみかけます。

 日本の飲食店で働くなら、北米の居酒屋で同じことをすれば、収入は数倍になるというのです。2023年1月の米国雇用統計では、失業率は50年ぶりの低水準と発表されましたから、「ネコの手も借りたい」労働市場でしょう。

もっとも実際に行くとなれば、、渡航費や就労ビザの必要性など確認はもちろんのこと、悪徳業者に捕まらないようにするなど、いくつかの注意点はあるものの、「海外バイト」が話題に上がるだけ、日本は国内の若者から見放されるつつあるのでしょう。

そのほか、2015年に、国外転出時課税制度が施行されています。この税制は、「国外転出をする一定の居住者が1億円以上の有価証券等を所有等している場合において、その国外転出の時に有価証券等の譲渡等があったものとみなして、含み益に所得税が課税される制度である。」とされます。

つまり永住権を取得できるほどの能力がある人に加えて、資産家も国外へ流出していているということです。もちろんこの2つの属性は重なる場合もあるでしょう。

さてこうして「出生数」激減・「平均寿命短縮」の発芽、それから「頭脳と富の海外流流出」と3つのトピックスを並べて観ました。これらがなぜ起きているのか、それぞれについての言及なら、その分野の専門家にしてみれば難しいことではないでしょう。

しかしこうした現象は、先のコラムでも述べたように、ソビエト崩壊後のロシアやウクライナで顕著にみられました。この理由付けを、それぞれに説明するのではなく、異なる国々で共通にみられる再現性のある要因の中で探してみますと、まず「経済の停滞」です。日本では「失われた30年」、ウクライナは「漂流の30年」です。

それからもうひとつは、国家体制がこの30年間のグローバル化に対応できなかたということでしょう。ウクライナは安定的な国家運営ができませんでした。一方の日本は、明治以来の官主主義で、「安定し過ぎ」だったでしょう。

つまり「世界で最も成功している社会主義国」日本はすでに崩壊しているのです。それはいつだったかと言いますと、ソ連崩壊と同じ91年ごろです。このころの日本は「バブルの崩壊期」でした。かつての日本は。東西冷戦の中で軍拡には参加せず、経済に力を入れて繁栄していたのです。