少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

引きこもり族の増加

人生ゲームよりビデオゲーム

 90年代も後半に入りますと、金融機関の統廃合もあいつぎ、就職氷河期も一時的ではないことがはっきりしました。いつの時代でも、いろいろな社会問題が発生しますが、そのなかで、少子化問題も喫緊の課題であるといわれてはいました。しかしながら、バブル時代の借金に追われて自殺する事業主が、身近なところにもいる悲壮さに比べますと、当時の少子化対策は通称「エンゼルプラン」といわれるなど、どことなく長閑(のどか)なものでした。そのプランの中身も、子育て支援に主軸が置かれていました。婚姻率の低下も認識され始めてはいましたが、「エンゼルプランじゃなくて、キューピットプランが必要だ」と、当時の担当大臣が、笑いながら発言する程度でした。少子化も事業破綻も根は同じマクロ経済の停滞だという考えは、あまり聞かれませんでした。

 正規雇用に漏れて、やむなくパートや派遣といった非正規労働者が増加する傍らで、もう働く意欲を失くした人たちが増えてきました。外で働く人は目に付きやすいですが、「お宅」でじっとしている人は、他人にはわかりにくいものです。統計を見て、一定数の集団を形成していることに気が付く場合がほとんどでしょう。

「ひきこもり」の増加も、失わらた30年と同じ起点

 こうしたいわゆる「ひきこもり」の中には、抑うつ系の精神疾患や障害を抱えた人たちも一定の人口比で存在するでしょう。一方では、人気アイドルグループの握手会には出て行けるし、近くのコンビニにも行く「ひきこもり」もいます。またこの度の3年にも及ぶコロナ禍でのステイホーム政策によって、「ひきこもる才能」にすっかり目覚めた人も少なくないでしょう。これらふたつの属性はまったく異なりますから、ここでは後者を「引きこもり族」と言いましょう。

 こうした人たちは、日本に限らず経済が成熟した西欧にもいるようで、90年代の終わりにイギリスからNEETという略語が伝わり、今やカタカナ書きで通じます。周知のとおり、就学も就職もせず、また職業訓練も受けていない人たちという、くくりです。

 2022年に人口減少が確認された中国でも、就職も結婚もあきらめた青年男子が一定数いて、「寝そべり族」と名付けられたようです。中国では、結婚するには男性側がマンションを購入する習慣だと言われます。そのためには、まず英語をマスターしてグローバル企業に就職しないといけません。一方では、共産党幹部の子どもには、仕事もマンションもどこからともなく降りてくる、日本以上の親ガチャ。

一人っ子で家庭的にも教育費はなんとかなり、無理やり勉強させられたけど、もう「やってられないわ」と燃え尽きたのでしょうか。もっとも、こうした人種が登場するということは、中国も少なくとも都市部では、経済が成熟して豊になったということでしょう。なぜなら、基本的に食べるだけの最低限の生活とはいえ、スマホを持って寝そべって暮らせるということだからです。

 またこうしたお仲間は、韓国にもまとまった比率でいて、「カンガルー族」(=親の懐に抱かれている青年)と言われているようです。

 さて日本で引きこもり族になるには、基本的な条件があります。だれでもなれるわけではありません。まず自宅に自分の部屋があるということです。そして生涯独身でいるということです。キューピットは天使の翼で空から降りて来るイメージですが、大聖堂なみの天井の高さがなければ、部屋の中には来ませんから、婚姻は無理なのです。

 親兄弟からとやかく言われること、生涯独身のふたつを受け入れることができるなら、引きこもり族も悪くありません。社会への参加や自己実現など、高尚なことはさておき、経済面だけみますと、いまさら仕事を求めても、低賃金の3Kしかないからです。

 「親が亡くなったら、どうするの?」と思う人もいるでしょうが、最終的には生活保護で国が面倒を見てくれますから、心配は要りません。そこに至る前に就業支援はすでに行われてきましたし、2018年からは「ひきこもり支援推進事業」も始まっています。これは何らかの障害を持った人たちへの支援を意図しているのでしょうが、「ひきこもり」とカテゴリーを広げると、引きこもり族も入ります。実際的に社会に適応できていないのですから、「適応障害」と病名を付けるのは困難ではありません。連れ出しのボランティア女性と、いわば国費でデートして、結婚した人もいるようです。かなり稀ながら、部屋から外に出れば、やはりキューピットは降りて来ることもあるのです。

 引きこもり族を社会全体でサポートしようという流れは結構なのですが、問題はその費用をだれが負担するのかということです。それは、国債を発行したとしても、最終的には定職に就き家庭を営んでいる人、あるいはこれからそうしようとしている人たちです。五公五民がネットでトレンド入りするくらい、社会的負担が増加していますから、とても希望の子ども数には届かないでしょう。

 未婚率の増加と、まだ僅かとはいえ、既婚家庭の子ども数の減少のダブルパンチは、経済の停滞とともに始まったといえるでしょう。引きこもり族・NEET・寝そべり族から、共通に見えるのは、経済が成熟して高止まりすると、未婚率が上昇して少子化が進行するということでしょう。

 さて政府は、「異次元の少子化対策」を連呼していますが、少子化の一つの要因は未婚率の上昇、さらにその背景は低賃金とはっきりしています。若年の引きこもり族だけでも、80万人に達していますから、もう少し45才あたりまで年令を上げると、引きこもり族は100万人を優に超えるでしょう。一か所に集めますと、「引こもり市」という名の政令指定都市が一つできます。家を出て働いたら市民権を失うという市条例がある、不思議な都市です。

 少子化対策だけではなく、就労人口対策の上でも、移民の受け入れを行う前に問題解決のカギは異次元の世界ではなく、「子ども部屋」にあるのです。眠れる100万人都市は、社会の大きな損失であるだけではなく、それぞれの人生にとっても、せっかく生まれて来たのに大きな機会喪失でしょう。

 現在の、少女漫画のような対策ではなく、「働いた方が得」だという方向に誘導することではないでしょうか。方向が決まれば具体策はいくらでも出てくるものです。

ただ彼らの反応は、「仕事? ふつーに、だるいし」「結婚? オワコンwww」

少子化? キタ~ ニッポン沈没」、大学を出ていたとしても、こんな具合でしょう。まず簡単な日本語の読み書きから教えないといけませんから、移民教育と同じくらいの労力を惜しまない覚悟は要るでしょう。