少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

なぜ化石燃料は 人口爆発を起こしたのか。

大型動物ほど、寿命が長い。

 動物の寿命は、単純な正比例ではありませんが、体重に相関する傾向を持っています。たとえばシカやウシ・ウマよりもゾウが長く生きます。地上で最も長生きする哺乳類はゾウで、寿命は70年を超えると言われています。

 また体重によって規定された動物たちの寿命は、変化していません。人間に飼育され飢えるのとがないウシやウマでさえ、ゾウの寿命には、いまだに及びません。人間の寿命だけが伸びているのです。

 さてアフリカゾウの平均的な体重は4トン。人間は60㎏程度で、体重からすると人間の寿命は15年から30年程度になります。実際、ホモサピエンス誕生以来、数万年にわたり、楽観的に見ても、その程度の寿命だったでしょう。ですから寿命でゾウを越えたのは、人類時計で見ますと、つい数分前のことです。

 大型動物がなぜ長生きか。天敵がいない動物園で飼育しても、小型動物の寿命が短く、大型化するに従い長生きです。動物のサイズによる特徴で、はっきりしているのは、大型動物ほどエネルギー摂取量が多いということです。多く食べるのです。たとえばゾウは、1日に90㎏のエサを食べ、190ℓの水を飲み、90㎏の糞尿を排泄します(#1)。

 では人間もゾウ並みに食べて排泄しているかと言いますと、エネルギー源が、食物だけではなく、いわば化石燃料だということです。そして排泄物が、PM2.5や二酸化炭素だということになります。人類はもとも木を燃やし火を扱えるようになってから、すなわち食物以外のエネルギーを使用するようになり、暖をとり、煮炊きを始め、天敵を追い払い、さらに焼き畑を覚えて寿命は伸びたはずです。そこからさらに、古の樹木や微生物の脂肪分である化石燃料を掘り出して本格的に使用するようになり、子は育ち寿命は伸びて、人口爆発を起こしたということです。これが工業化の時代と位置付けることができるでしょう。

石炭がもたらした目に見える生活改善

石炭が燃える石であることは、紀元前から世界各地で知られていました。ただ燃え出すと尽きるまで止まらない、黒鉛を出して悪臭を放つなどの欠点があり、日常の屋内での使用には向いていませんでした。しかしすでに13世紀には、イギリスで本格的な使用が始まったのです。イギリスは、建国時に森林を切り開いて牧草地を開墾して以来、今日まで森林率が低いのです。労働者層は、薪炭を買うことができず、石炭を使用し始めました。当初は薪を拾うように、露出している部分を露天掘りしたのです。

 これでともかく暖がとれて、煮炊きができるようになりました。意外なことに、粗末な家内も顔も煤だらけの民衆の方が、ペストにかかる率が低かったともいわれています。これは硫黄成分かも知れませんが、排煙のなかに殺菌効果を持つ物質が含まれていたのでしょう。

 民衆には、学も財もありませんが、知恵があります。やがて1世紀、ほぼ3世代もすると、石炭用のコンロができ、暖炉は日本の囲炉裏のように部屋の中心部にあったのが、壁際に移動します。こうした改造を可能にしたのは、レンガでしょう。レンガは、もともと製造に大量の薪炭を必要とした高価な商品で、民衆には縁がないものだったのが、品質はともかく、石炭で大量に安価に焼き上げることができるようになりました。住宅環境が良くなりますから、死亡率は改善し、世代を追うごとに、子どもも老人も生き延びる率が高くなったでしょう。

 石炭の使用量が増えるに従い、露天掘りの抗は深くなり、かつ地層に合わせて水平に掘り進まなければいけませんでした。ここで大きな問題が2つ発生します。石炭は湿地の植物の化石ですから湧き出る水の処理と、石炭の運び出しです。当初は人や家畜による汲み出し運び出しでしたが、やがて民衆の知恵を越えた発明家が登場します。まずはニューコメンです。かれは蒸気圧を利用したポンプを発明して「炭鉱夫の友」という商品を売りだします。深さ30m程度までの対応型です。しかし石炭の需要は飛躍的に上がり続け、坑道の入り口は50mを越えるようになりました。やがてこの蒸気機関の発想はワットによって改良されました。

 興味深いことに、産業革命当初には、蒸気機関が燃料である石炭を求めたわけではなく、反対に石炭が蒸気機関の開発を促したのです。

 また坑道からの運び出しには木製のレールをひいたトロッコで、子どもたちが狭く暗い坑内で使役されたりしました。地上に上げられた石炭を敷地内で運ぶために、坑内の木製レールを鉄製にして、ワットの蒸気機関に曳かせたのが、炭鉱技師のジョージ・スチブンソンで、鉄道網として世界に普及するようになったわけです。

 製鉄も、薪炭を用いて古くから行われていました。このエネルギーを石炭に替えると、不純物が混入して使いものになりませんでした。これもコークスの精製によって改善しました。樹木から木炭を作るように、石炭を乾留させる製法です。不純物が蒸発したあとには穴の開いたコークスができるわけです。炭鉱内の労働とは異なり、コークス工場では力は要りませんから、すでに多くの女性が働いていたわけです。しかしこの蒸気がコークス工場の労働者の健康を蝕みます。

 やがてこのコークス工場で排出される煤煙を分析する科学者たちが台頭してきます。もっとも発達したのは現在のドイツ沿岸部です。幾種もの分子の中で、ベンゼン環が着目されました。理科系嫌いを作るあの「亀の甲羅」六角形です。しかしベンゼン環をもととする有機化学工業は、衣服の染料に始まり、繊維や消毒薬のフェノールついには、世界初の抗菌剤であるサルファ剤もすでに第二次大戦前にはドイツで完成しています。やはり石炭の煤煙の中の硫黄成分に抗菌効果があったのです。

まとめ

 化石燃料がなぜ人口爆発を起こしたのか、ここまでをまとめますと、まずゾウ並みにエネルギーを消費し、生物学のセオリーに沿って、長生きするようになったのです。それはなぜか、目に見る変化としては、住宅や衣類などの生活環境や物資が改善し、衛生や栄養それに医学も飛躍的な発展をとげ、当時の問題であった感染症による死亡率を減らしたからでしょう。

 さらに今日の労働衛生からしますと劣悪な環境ながら、女性や子どもも賃金を稼げるようなり、親家庭や限られた農地での、食料や最低限の生活物資の供与だけの報酬に頼らず、なんとか自活できるようになったからでしょう。

 さらに産んだ子は育つのだと認識するには、すくなとも1世代はかかります。農耕時代と同じように、多くの子どもを産みましたから、出生数は増えも寿命も延びて、人口はS字カーブを描いて増加したということになります。

化石燃料が人口爆発を引き起こす。

スモッグの中で子どもは生まれる?

 日本の人口動態を歴史的に振り返りますと、関ヶ原の合戦(1600年)の頃には、1千万人程度であったと推計されている人口は、おおよそ300年後の1872年(明治5年)には、3480万人になっていました。300年で3倍になったのです。

それが1968年にはさらに1億人を越えました。3倍になるのに100年しかかかっていません。つまり人口の増加ペースは3倍に加速したのです。この人口増加を後押したのは、工業化すなわち化石燃料の消費だったでしょう。こうした化石燃料の消費と人口増加の相関関係は、グローバルに見てもまったく同じです。定住農耕から工業化への移行が人口を加速度的に押し上げています。産業革命といえば、蒸気機関を連想させますが、それとならんで薪炭から化石燃料へとエネルギー革命が起きていたわけです。

さらに化石燃料から石油の消費によって、日本の人口は増加フェーズの最終局面に達します。それが人口1億人を突破した経済高度成長期でした。増加トレンドに延長線を引いて、「このままでは、しかじか年後には日本の人口は2億人を突破する。」という予測がマスコミ上での主流派の意見でした。その頃は、まさしく「東京には空がない」状態でした。東京に限らず、日本中の大都市圏は光化学スモッグに覆われていました。このスモッグは、smokeとfogの合成語です。ロンドンでは、産業革命の1世紀も前から、石炭の消費によって大気汚染が進んでいたわけです。それと同時に、当時のイギリスやフランスでも、人口が急増フェースに入りました。

 

大気汚染地域の出生率は高い

 化石燃料の消費と関係が深い大気汚染レベルと出生率の関係を、地球規模でみてみましょう。まず大気汚染の程度を計る指標として、今日ではPM2.5の濃度がよく用いられています。これは空気中の微小粒状物資のことで、「今日はピーエムがすごいですね。」など、日常会話のなかにすっかり溶け込んでしまいました。このやっかいものの発生源は、化石燃料のほか、火山や油井それに越境汚染などがあります。そのほか、空気中での化学反応による2次的な影響も受けています。

 

 

グラフデータ 出生率世界銀行2020年 、 PM2.5濃度:WHO世界保健統計2022年版

さて、PM2.5濃度と出生率の関係を地球規模でみますと、正の相関関係があります(相関係数0.518)。

PM2.5の世界平均値は(31.2μg/m3)ですが、先進国は20以下で出生率2.0のマスに折れ重なるように収束しています。

一方で象徴的なのは、PM2.5濃度が世界で最も高いニジェールで、出生率が最高を示していることです。もうひとつニジェールとよく似た国名のナイジェリアも、グラフの右上すなわちPM2.5が高く、かつ出生率も高いグループに属しています。この両国は、西アフリカのニジェール川流域に位置して、現在の人口激増地帯です。人口は、ニジェール2500万人に対して、ナイジェリアは2億人を越えています。中位数年令は、それぞれ15才と18才です。この中位数年令とは、「全人口を年令順にならべたときに、中央で人口を2等分するときの境界点にある年令」とされます。つまり両国では、人口の50%が、それぞれ15才以下と18才以下ということです。ちなみに世界1の高齢化国の日本のこの値は46才です。見方を変えりますと、先の両国では、女性の半数が、これから出産期を迎えるということです。

両国ともに人口の半数以上が、自耕自給の農業に従事しているようですが、一方では工業化が始まり化石燃料の消費が上がっているのでしょう。ニジェールとナイジェリアは、それぞれフランスとイギリスの旧植民地で、それぞれフランス語と英語を公用語としています。英語圏のナイジェリアが先にグローバル経済に乗っているのかもしれません。座標上で先進国側に寄っているからです。

そのほか、ニジェールの方が、内陸に位置していますから、空気の動きが悪く、強い日光エネルギーを長時間受けて、大気汚染を増幅して実際の排出量よりも、いくぶんかは高い値になっていることも考えられます。またナイジェリアからの越境汚染も加わっているかもしれません。しかし両国を同じ地域とひとくくりにしますと、化石燃料の使用量が多く、出生率が高い地域であることに間違いはありません。化石燃料が、人口爆発を起こしているのです。

ではすでに2世紀も前に、化石燃料による人口爆発を経験したイギリスやフランスはどのような人口対策をとったのか。それは移民政策と産児制限です。フランスは当時の欧州では群を抜いて高かった出生率に歯止めをかけました。一方のイギリスは産業革命による武器の近代化をすすめ、植民地を広げました。現在、イギリス以外で英語を公用語とする国は、こうして形成された大英帝国の植民地だったということになります。

 この2カ国をモデルとして、後追いで工業化を推進したロシア・ドイツ・イタリア・日本では、人口の増加圧力を逃がす植民地はすでになく、社会不穏を醸し出し、動乱や戦争に向ったことは、すでに世界史に示されています。こうした人口圧力による動乱を避けるために、ニジェール川流域から言語が通じるイギリスやフランスへの移民が増えるのは、当然の流れでしょう。

トレンドからの外れ値を示す国

グラフ中でPM2.5濃度が高い3カ国は、ニジェールのほか、ネパールとカタールです。ネパールは、工業化が起きているというよりも、隣国インドからの越境汚染の影響が強いのではないでしょうか。またカタールは油井由来の可能性があるでしょう。

一方には、先進国並みのクリーンな空気を保ちながらも、比較的に高い出生率を保っている国々があります。ほとんどが南大平洋の島々です。産業は1次産業の上に観光業の3次産業が乗っている構造でしょう。2次産業はなく、島ですから、自動車が入れる道路も限られている。したがって、PM2.5濃度は低く人間の生存には恵まれた自然環境なのですが、平均寿命から見ますとLE70sです。寿命と出生率は反比例関係がありますから、先進国に比べると短い寿命に見合った高い出生率を維持しているのでしょう。

 

80・2.0の壁とは

 下図は世界の181の国と地域の平均寿命と出生率の関係を見たものです。「強い負の相関関係(相関係数=-0.81891)」がみられます。いうなれば平均寿命と出生率は反比例するのです。つまり平均寿命が長くなれば、出生率は下がるということです。

平均寿命:WHOによる推計値 2019年  出生率世界銀行2020年

 欧州や日本などの先進国では、出生率を上げる政策が、反対にサハラ砂漠以南のアフリカでは産児制限策がそれぞれ取られています。そうした政策の影響を越えて、平均寿命が出生率に最も大きな影響を与えていると言えるでしょう。

 こうした平均寿命と出生率の反比例関係は、日本における戦後から今日までの人口動態を時系列でみても、同じ傾向を示しています。すなわち多産多死から少産少死への人口転換です。これは産む子ども数を減らして大切に育てるから、乳児死亡率が下がったというよりも、社会が豊かになり衛生や栄養それに医療制度の改善によって、乳児死亡率が下がり、多くの子を産まなくても、子は育つようになったということです。因果関係の順に並べ替えますと、少産少死ではなく、少死少産なのです。

世界は3つのグループにわけられる。

さてここで、世界の国々を平均寿命の長さによって、80才代・70才代・60才代以下と、3つのグループに分けてみましょう。そしてそれぞれ、LE80s・LE70s・LE60sと表記します(LE;life expectancy)。

なぜ3つのグループかと言いますと、平均寿命が90才を超える国は存在しませんし、今世紀初頭には30才代の国々がアフリカ南部内陸に一部存在していましたが、これらの地域でも50才代まで改善しています。平均寿命がいまだ60才に満たない国は、10ヶ国以下ですから、残りの概ね95%の国々の平均寿命は、60才から80才代に分布しているのです。

また政治的にも経済的にも世界は、2つでも4つでもなく、3つに分けられることが多いでしょう。たとえば世界冷戦の時代は、第3世界といわれるグループがありました。第1と第2はそれぞれ西側・NATOと東側・ワルシャワ条約機構を指していますが、そのどちらにも属さないグループのことでした。また現代においても、産業構造や経済規模から、高度先進国・新興工業国・開発途上国とに分けらます。これらはまたG7・BRICs・グローバルサウスと重複する部分があります。この分類でグローバルサウスの政治・経済的な定義があいまいなのですが、人口動態からいえば明確で、LE60sです。同じようにG7・BRICsに代表される国々は、それぞれLE80s・LE70sに属しています。つまり平均寿命は、その国の経済規模あるいは一人あたりのGDPといった所得水準との関係が深いことを示唆しています。

ところで、BRICsの“S”はもともと複数形の意味でしたが、今日では南アフリカを指す場合もあります。しかしながら、ウクライナ戦争をめぐる政治的なスタンスはともかく、人口動態的には、平均寿命が65.3才ですから、やはりLE60sでしょう。もうひとつの外れ値を示しているのは米国です。かの国の平均寿命は78.5才で出生率は1.638です。中国はそれぞれ77.4と1.7ですから、似かよっています。人口動態から見ますと、米国はLE70sに入りますから、BRICsは米国を加えてBRICAsになるでしょう。

米国経済は、中国に追い上げられているとはいえ、いまだにGDP比では世界の22%を占める世界1の規模で、かつ世界1の医療費を使いながら、いまだにLE80sに入れていません。そこには何か、私たちが反面教師とすべき、人間を幸福にしない構造があるのでしょう。

寿命が伸びれば出生率は下がる

さてここまで、世界の国々は平均寿命の長さによって3つのグループに分けられる。そして寿命の長さは所得水準と関係がありそうだということを述べてきました。

つぎの傾向として、寿命が伸びるに従い、出生率が落ちて来るという現象があります。散布図をみても、あたかも流星群墜落の軌跡のようです。かつての恐竜絶滅の原因として、「隕石の衝突」が一説としてありますが、人類は少子化・無産化によって、先進国から順に自ら墜落して消滅するかのようにも見えます。

寿命が伸びるに従い、出生率が落ちる。これは地域・民族・宗教に関係なく、同じ傾向を示しています。具体的には、LE60sでは出生率は3.0以上ですが、LE70sになるとそれを下回り、70sも後半に達すると、やがて2.0を切っています。そしてついにLE80sになると、あらゆる対策をうっても2.0を超えることができていないのです。

たとえば、少子化対策に早期から取り組んで来たフランスでは、過去20年の間に、2.0を超えたことがありました。またスウェーデンでもそこに迫りました。しかし、2.0はガラスの天井で、安定的に超えることはできていません。平均寿命が80才を越えると、出生率は2.0を超えられない。これが80・2.0の壁です。この壁を越えている唯一の国がイスラエルです。平均寿命は82.6才で出生率は2.9と、余裕を持って越えています。イスラエルが特異的な国であるにせよ、壁を越えている国が存在していることは、日本にとっても有効な少子化対策が見つかる可能性があるということでしょう。

さてその日本の、戦後から今日までの人口動態をふりかえりましょう。年間の出生数が最高で270万人に達した戦後ベビーブームの頃は、日本人の平均寿命は50才代でしたから、LE60sです。そして出生率は4.0を越えていましたから、現在のサハラ砂漠以南のアフリカと同じ人口動態です。そこから新興工業国として経済高度成長に突入するにしたがい、平均寿命は伸び、反対に出生率は2.0に向けて急低下しました。現代のLE70sと同じです。そして1975年に、出生率は2.0を切って1.91になりました。その年の平均寿命は、男性で71.7才・女性76.9才でした。LE70sの後半です。ここから20年経過した95年あたりからLE80sに突入し、世界に先駆けて80・2.0の壁を発見したのです。

OECDは “老人クラブ

日本は壁の前で、茫然もしくは右往左往して“失われた30年”を過ごしました。その間に他の国々は、日本と同じような経過をたどり、新興工業国から先進国に発展してきました。80年代を通じて日米欧24カ国のみだったOECD経済協力開発機構)の加盟国は、2022年には38カ国に増えています。このうち31カ国がLE80s になり、80・2.0の壁に突き当たっているのです。かつて“金持ちクラブ”といわれたOECD加盟国は、今や“老人クラブ”ですから、OECDへの加盟申請が出されたら平均寿命だけ見て審査することが可能でしょう。LE80sなら合格です。高齢化が進んでいれば、間違いなく所得が高い高度先進国です。また内政も安定しているでしょう。それと同時に、出生率は2.0を切り、少子高齢化の流れにのっているはずです。 

人口大国のBRICsも、経済発展の程度にあわせてLE70sの後半に入り、それにともない出生率は低下しています。インドの出生率が2.18と、同国の乳児死亡率を勘案しますと、かろうじて人口置換水準にありますが、中国はすでに人口減少が始まったと報道されています。また、他の国々もすでに2.0を切っていますから、80・2.0の壁が見えているはずです。さらに、 かつての人口増加地帯であった東南アジアやラテンアメリカでも寿命の伸びとともに、出生率は低下傾向になっています。現在人口爆発が続いているのは、アフリカのLE60sの中のニジェールソマリアコンゴを始めとする10ヶ国程度の国々のみです。しかも人口が10年で倍増しているのは、これらの国々の都市部だということです。世界の人口は80億人を超えましたが、さらに緩やかに増加しているのは、これら世界の5%の国々の牽引力が強いからです。

これら5%の国々にとっての80・2.0の壁はまだまだ遠いでしょう。なぜなら、所得を増やして少なくともLE70sの後半に到達しなければいけないからです。 

外国人労働者の受け入れは、「お得」なのか?

 

 

見逃されている費用

外国人労働者の呼び込みは、労働市場の開放や技能移転による国際貢献など、美しい言葉がならびますが、本音は低賃金労働者の穴埋めです。これは受け入れ側の先進国に共通で、日本に限ったことではありません。大学職員をはじめとする研究・教育者やIT技術者などの、高度技能者はいつの時代でも、すべての国で門戸は開いています。しかし自国民が就きたがらない、いわゆる3K職に就く、外国人労働者への門戸は、受け入れ側の都合によって、開いたり閉じたりしているのです。閉ざす理由は、仕事の奪い合いや、社会構造の変化による排斥感情です。 

 さて、人手不足というよりも賃金不足の業種が増え、いよいよ日本も移民の受け入れしかない、という声が日増しに強くなっています。「移民政策やむなし」という前に、そもそも労働者を送り出してくれる国が周辺にあるかどうかについては、前回のコラムで述べました。つぎは、低賃金労働者の受け入れは、ほんとに「お得」なのか、見逃さされている有形無形の費用はないのかという視点です。

 外国人労働者の受け入れの中核として、すでに財団法人・国際研修機構(JITCO)が存在しています。その周辺には商工会議所などの斡旋団体があります。つまりこうした機構や団体に、公的あるいは民間資金が投入されているということです。すなわち労働者本人への賃金以外に費用が発生しているのです。 

 また外国人労働者家庭に目を向けますと、文科省による調査年にもよりますが、概ね2万人から1万人の子どもたちが就学できていません。背景には、子ども自身の日本語力不足や親が子どもの就学に無頓着であることなどがあげられています。もちろんこうした家庭には貧困が根を張っていることが多いでしょうから、生活支援も必要になります。

 未就学は、すでに発生している社会問題ですから、官民による支援が必要でしょう。つまりここにも、外国人労働者の受け入れに対する機会費用が発生しているのです。若年の外国人労働者の受け入れを増やせば、こうした子ともたちの就学問題がますます増加するということです。

 隠れた費用もさることながら、未就学問題への対処は一筋縄では解決しないでしょう。それは、日本人の小中学生の不登校者が24万4940人もいて、調査前年度から4万8813人増加しているということからも、察しがつきます。(数値は文科省 2021年調査による)。さらに教育現場は教師不足で長時間労働が常態化していると報道されています。

 また健康保険財政上の問題も指摘されています。就労者が本国の祖父母を扶養していると認定されれば、彼らは日本に来て、健康保険を利用して白内症や人工関節置換といった定型的な手術を受けて帰国することができます。こうした医療費もまた、外国人労働者を受け入れるための機会費用と言えるでしょう。

 これら教育や医療それに貧困救済などの機会費用が平均していくらになるかは、分かりませんが、かれらの額面賃金15万円から20万円に加算しますと、実質的な賃金は倍増する額になるかも知れません。国際貢献と割り切れるならともかく、「低賃金労働者の受け入れ」という目論見は、大きく外れているのです。

 

 “郷に従えない”こともある。

そのほか金銭換算が不可能な問題も発生します。それは、住民による社会構造の変化への不安感でしょう。その一端ともとれる事例が、さっそく大分県で発生しています。イスラム教徒のモスクが土葬できる墓地を求めたのです。住民は、水質の汚染を理由に難色を示していると報道されています。しかし、住民の不安は、水質の汚染よりも、口外しにくい社会構造が変化するのでは、という懸念ではないでしょうか?

 日本でも、ほんの半世紀前までは、土葬はよく見られる埋葬方式でした。それが墓地の不足や、価格の高騰で、いまや小さな納骨堂を確保するのがやっとになったわけです。しかしながら、これは死生観に関することですので、「郷に従え」では解決しないでしょう。

 私の個人的な体験を少し述べましょう。私は、長崎県五島市の出身ですが、かの地域では70年代の後半くらいから、土葬から火葬に急激に変化しました。その流れを見ていた祖母は、急に不安になったのでしょう。ことあるごとに「焼かないでくれ」と繰り返すようになり、父は「わかった」と返事していました。祖母にしてみれば、迫っている自らの死は受け入れたのでしょうが、焼かれたのでは、冥途に旅立てないと不安だったのでしょう。自分が多くの親類や村人を送ったように、やはり御朱印が入ったお遍路さんの姿で埋葬してほしかったのです。

やがてその時が来て、「あれほど、懇願したものを焼けない。」と父が言い、昔ながらの棺桶を墓地まで4人で担ぎました。

 このエピソードは、宗教上の縛りというより、単に祖母の個人的な死生観によるものです。まして、宗教上の決まりで火葬は許されないとなれば、当人は信ずる神の元にたどり付けないと判断されますから、妥協点はないでしょう。大分県の場合は、アジア各地からの留学生を積極的に受け入れている大学がありますから、こうした抜き差しならない問題を抱えているのでしょう。それはやむを得ない流れかもしれません。

 しかし、わざわざ近隣諸国から、労働者を呼び込んで低賃金で働いてもらおうというならば、同様の問題は全国的に広がり、ソロバン勘定よりも「高くつく」のです。人は老いて病んで死ぬものであることは、外国人も全く同じです。若くして働ける歳月は限られていて、そのあとは長い老後そして死です。移民政策の是非を問う前に、こうした問題に対峙する覚悟が、私たちにあるかということです。

静かな侵略

ここで、外国人労働者を近年に積極的に受け入れた先進国の人口構成を見てみましょう。これは「移民の背景を持つ20才から29才の人口比」ですが、移民の背景を持つというのが、両親ともに外国人なのか、それとも少なくても片方なのかの定義が、各国で異なっているデータで、正確に統一されてはいません。

さて、その比率はオーストラリア50%、フランス・スウェーデン20~30%、ドイツ23%です(#1)。 

 この中で、直近の移民比率はオーストラリアが突出しています。もともと移民の国であること、広大な国土で人口密度は低いこと、そして公用語が世界的に習得率が高い英語であることなどが、移住する人たちに選ばれる理由でしょう。しかし、一方では「silent invasion(静かな侵略)」という本が出版され話題になりました。またカナダでは同じテーマで「パンダの爪」という本が書かれ、話題になっていました。20.23年5月現在、相互に外交官を追放するなど、実際的な政治問題が発生していますが、これらの著書は、中国による政界工作を問題視したもので、直接的に移民にたいする排斥感情をテーマにしたものではありません。

 しかし民衆には、政界工作など複雑な問題を吟味する情報も専門性もありません。ただ不愉快なニュースとして蓄積されるでしょう。そして深刻な不況に陥り仕事の奪い合いが始まれば、民衆に蓄積されたそれら不愉快な記憶は排斥感情に油を注ぎ、目の前の外国人に向かいがちです。

 すでに移民大国である米国は、建国以前から奴隷としてアフリカ系を連行してきましたから、300年たった今でも、白人警官による黒人への暴力が発砲が、珍しくはなく、「Black Lives Matter(黒人の命も大切だー)」を掲げた暴動やデモが発生しています。

 日本で、他の先進国に周回遅れで、移民政策をとるなら、まずこうした問題に対処できる能力や覚悟が社会にあるかどうかを考える必要があるでしょう。移民政策を一種の投資と考えるならば、リターンへの期待と同時に、リスクを社会として受容できるかということです。

近隣諸国に、労働者を送り出す余力はもうない。

アジア全域で、少子化が進行中

 人口動態の変数は、周知のとおり出生数・寿命・移動の3つです。先進国共通に出生率の減少と人口減少に悩まされているわけですが、それなら出生数の回復策よりも、移民の受け入れが手っ取り早いのでは、ということになります。

 実際にフランスを始め、ヨーロッパ・北米それにオーストラリアでも、出生率と人口の減少を抑制できている要因のひとつとして、「移民の受け入れ」があげられることが多いです。いよいよ日本も、という声は多いですが、日本に労働者を送り出してくれる国は、あるでしょうか?

 技能実習制度が国連や米国政府によって「人身売買」あるいは「奴隷制度」の烙印を押されて、世界に流布しましたから、「廃止見直し」ということで、まずは有識者会議が開かれているようです。しかし魂胆は変わらず、低賃金労働者の穴埋めをさせようということですから、行きつく先は同じでしょう。

 ところで安部晋三・元総理が「移民政策は取らない。」と国会で明言していましたから、日本には移民はいないのです。そもそも「移民とは」というと、神学論争になりますから、「外国人労働者」の受けれと、限定しましょう。私たちが、実際の入国ビザを確認することはありませんが、外見と名札からして、外国人と思しき人たちが働いているのは、コンビニなどで日常的に目にしています。外国人労働者は、目の前に明確に存在しているのです。

 では、はやくも壁に付き当たった「技能実習制度」による外国人労働者は、どれくらい居るのかといいますと、2022年6月の調査で、33万人です。出身国の56%がベトナムで、月収は15万円から20万円(厚労省)。日本の就労人口は6900万人ですから、人数としては全体の0.5%程度ということになります。賃金自体は、日本は今や先進国としては、世界的に有名な低賃金国ですから、日本国内での基準でみますと、相対的に極端に低いわけではないでしょう。問題なのは、本国からの渡航費や現地仲介業者の手数料などの借金を抱えて、全部とは言いませんが、ブラック事業所で働かされているということでしょう。21年には、7000人か“逃亡”しています。つまり辞職することもできないわけですから、まさに人身売買と言われても抗弁の余地がありません。それからもうひとつは、この制度の元締め役は財団法人・国際研修機構(JITCO)ですが、歴代理事長は元検事総長を始め、元検事長が占めていることです。法務省の元実務者たちが、奴隷制度を築きあげてきたとも言えます。したがって、難問は、元検事長にだれが法令とくに労働基準法を教えるのかということでしょう。

 さて、技能実習制度による外国人労働者は、33万人程度で、日本の中規模都市の人口レベルですが、条件をつけず「外国人労働者」としてみますと、総数182万人と、大規模な政令指定都市人口なみで、神戸市や福岡市の人口を超えています。

 また全就労者に対する比率も2.6%に上昇します。各職場平均で、39人に1人の割合ですから、結構見かける頻度になるでしょう。

 外国人労働者が、どこから来日しているのか、詳しく見てみましょう。

資料:「外国人雇用状況まとめ」2022年10月 厚生労働省、 GDP出生率世界銀行2020年

表は、全外国人労働者に占める国別の比率と、その国の「ひとりあたりのGDP(以下、GDP/人と表示)」それから、合計特殊出生率を書き込んであります。なぜ、このふたつの指標を入れたかと言いますと、まずGDP/人はその国の所得水準と相関しますし、出生率は、同じように送り出す国々の労働力の将来推計の目安になるからです。

なぜ日本で働くことにしたのか。日本のアニメが好きだから、なんとなく好感が持てるから、といった理由も、いくらかあるでしょう。しかし働くとなれば、同じ仕事をしても本国との給与の差が大きい、つまり稼げる。さらに本国では労働力は余っていて、思うような稼ぎの仕事は少ない。こうした事情が、出稼ぎの背景にあるからです。

さて、かつて外国からの労働者の受け入れが本格化した90年代は、中国からの流入が圧倒的だったのですが、2017年ごろから、比率・増加率ともにベトナム国籍が1位になっています。

なぜ中国人が減ったのか。それは表にあるように、まず、GDP/人が上昇したからでしょう。節目の1万ドルを超えています。農村部を除いて大都市部だけに限れば、2倍以上になるかも知れません。また出生率も、2.0を切っていますから、やがて中国内の労働力が危うくなるということです。それでも2位の比率を保っていますが、就労資格は、「技術・人文・国際業務」といった分野です。単純作業に従事して、独特の送金システムで本国の実家に仕送りするといった光景は、もう一世代前の話です。

現在では、たとえば本国の不動産会社の日本支社に勤務し、北海道や話題になった沖縄の島を始め、日本の不動産を爆買いしているわけです。それを本国の資産家に転売する、あるいは本国からの旅行者や滞在者に賃貸する。こうした仕事が、「国際業務」のひとつの姿なのです。つまりはかつてとは比較にならないくらい、ガッポリ稼ぐようになったのです。

 中国の後を引き継ぐように、外国人労働者比率1位のベトナム人は、就労資格も「特定技能・技能実習」ですから、抜けた中国人の完全な穴埋めでしょう。

ところが昨今ではチャイナ・リスクが喧伝されて、生産拠点の一部をベトナムに移転する動きがあるとのレポートも散見されますから、ベトナムも豊かになり、日本への出稼ぎには、魅力を感じなくなるでしょう。さらに出生率が、2.0を切りつつありますから、やがて国内で人手不足になってきます。つまりベトナムからの、さらなる労働者の流入は見込みにくいということです。

 ブラジル人の比率も、変わらず一定数ありますが、これは新たに流入しているというよりも、「永住権・定住者」といった身分系在留資格による就労です。つまりは、かつてのバブル期に日系人として来日した人たちの日本生まれ子ども世代が、就労しているということです。ペルーも似たような事情でしょう。

 しかし今では中南米の経済事情は様変わりしました。チリ・メキシコ・コロンビア・コスタリカOECDに加盟し、先進国の仲間入りをしています。OECD加盟国は、かつて“金持ちクラブ”と揶揄されていましたが、今や、少子高齢化が進行する“老人クラブ”で、どこも人手不足です。こうした新たな先進国は、ブラジルやペルーからは、近隣国で言語の問題もありませんから、もうわざわざ日本には来ないでしょう。

 残るは、フィリピンとインドネシアです。ところが出稼ぎ大国のフィリピン人は、英語の習得者が多いですから、欧米を目指すでしょう。特に看護・介護といった分野は、国際的に人材の奪い合いになっています。ドル計算での賃金も、欧米なら日本の3倍にはなるでしょう。つまり、しぶしぶ日本に来てくれるのは、おそらくこの欧米コースから外れた人たちだということです。

 かわって、インドネシアの過去40年間ほどの人口推移をみますと、1億4749万人(1980年)から2億7743万人(2020年)へと、ほぼ倍増しました(世界銀行;WB)。

 しかし、インドネシアも新興工業国になり、所得の増加ととともに少子化の流れに入ったのでしょう。出生率は2.0以上をまだ保っていますが、かつての人口増加の勢いはもうありません。これまでの人口爆発の中でさえ、来日者数が限定的であったことからして、これまでのトレンドを越えて、日本をめざす若者が増える気配はないのです。 

  また、ネパールも少子化が進行しています。若い労働者が国外に出るために、外貨は入ってくるものの、国内産業が発展しないのです。日本の経済高度成長期の地方部と似たようなものです。先進国とは異なる理由での少子化が進行していますから、今後の来日者は先細りになるでしょう。またインドの経済発展が続けば、日本まで来なくても、職場は庭先に出来ます。 

近年では、技能訓練生を求めてミャンマーまで足を伸ばしているようですが、かの国は周知のとおり政情不安ですから、就労どころか日本に入国すると同時に、難民申請が出されるかも知れません。かつ、出生率も2.12ではありますが、乳児死亡率は日本と比較にならないくらい高いはずですから、この出生率で自国の人口維持がやっとのレベルでしょう。つまり、これ以上の外国人労働者の増加は、送り出し国の事情からして、期待できそうもありません。

 ただ、すでに入国している人たちの2世・3世は生まれてきますから、いくつもの外国人街が形成されて、外国人労働者の逓増はあるでしょう。

 

  台湾・韓国からの大量避難民が来日する可能性

  現状で、日本に労働者をさらに送り出せそうな国は乏しいのですが、有事となれば、話はまったく変わります。

 まずは一般論ですが、生まれた国から他の国に移動定住している人の割合は、世界人口の2から4%(2億7200万人)で過去50年年間ほとんど変化していないといいます(#1)。近隣国への移動が一般的で、地域的にはアフリカ大陸内での移動が最も多い。2023年4月現在、スーダンで内戦が発生しています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によりますと、すでに10万人が近隣諸国に移動し、最終的に80万人に達すだろうと、報道されています。

 さて現在、台湾海峡が緊迫し、安部元総理が「台湾の有事は日本の有事」と世界に公言し、岸田総理もウクライナに続いて、台湾政府に「必勝しゃもじ」を贈る勢いです。有事の場合のシュミレーションは軍事や輸送航路に偏り、見逃されているのが、避難民の発生ではないでしょうか。

 ウクライナスーダンの事例からみて、両陣営ともに、外国人や非戦闘員の避難のための数日の停戦には合意するはずです。さて台湾の人口は2326万人ですが、このうちどれだけの人がどこに避難するかです。北米・欧州・オセアニア・日本などの先進国が候補に挙がるでしょう。台湾の一人あたりのGDPは日本と変わりませんから、おしなべて裕福です。さらに富裕層に限れば、華僑をハブとした人的ネットワークを、中国本土を含め世界規模で持っているといわれていますから、世界のどこに居ても、規模が縮小されるだけでリモートワークが可能でしょう。したがって渡航費と当座の生活費の工面には困らず、行先の選択肢は多いはずです。

 「日本の有事」でもありますから、富裕層はもっと戦火が及ばない地域を選ぶでしょう。しかしながら、航空機の台数にも座席数にも限りがありますから、平均的な人々は船便で「さしあたって日本」ということで、日本へ越境する人が最も多いのでは、と予測されます。なにせ海路で100㎞北上すれば日本領に入ります。天候が悪くなければ、小型漁船でも海流に乗って航行可能でしょう。こうした避難民は、ともすれば台湾人口の5%にあたる100万人単位になり、そのうちの何割かが、有事後の台湾情勢によっては、日本に定住する可能性があるでしょう。ただし、日本が求める低賃金労働に就く比率は、日本人同様に極めて低いはずです。

 さらにもしや、この有事が引き金になり、中国大都市で民主化運動が再燃し、現政府が統治力を失えば、避難民の数は千万人単位になるやも知れません。

 まったく同様に、朝鮮戦争が再発すれば、韓国からの避難民が押し寄せるでしょう。韓国の人口は台湾の2倍以上あり、かつ対馬北端と朝鮮半島南端の距離は50㎞で、天気が良ければ肉眼で島影が見える近さです。台湾からの避難民の2倍以上が見込まるでしょう。

 こちらも、北朝鮮側の体制が崩壊すると、船が傾くほどの、大量難民が押し寄せて来るでしょう。もちろん海上で押し戻すことは、人道的にも方法論的にも困難です。

 こうした避難民による定住人口激増の想定は、荒唐無稽に思えるかも知れません。しかし起こる確率は、台湾有事や朝鮮戦争再発の確率と同じなのです。なぜなら、戦争や動乱があれば、必ず避難民は発生するからです。

 出生数や死亡数の変化による人口の増減の予測は、これまでのトレンドの延長ですから連続的で緩やかですが、戦争にともなう移動による人口増加は、非連続で急激な変化をもらすことになるでしょう。

 移民政策に舵を切りつつある日本としては、戦火はもちろん避けるべきではありますが、こうした避難民の収容施設やその後の定住先の青写真は持っておいた方が、パニックを軽減して、“待ちに待った”大量の移住者を受け入れることができるでしょう。

 しかしそうしたことは単なる仮定で、誰も望んでいないでしょうし、発生する確率も高くはないでしょう。

 現実的には現在、多くの外国人がいわゆるインバウンドとして来日しています。

こうした若者のなかに、日本に長期滞在したい、日本で働きたい、学びたいという人たちが一定数いるはずです。なぜなら、若者は“自国以外のどこかへ行きたい習性”を持っているからです。最初のきっかけは旅行だったというのは、世界中によくあることでしょう。

 こうした人たちは、誤解にもとづくことだとしても、まずは日本に好感をもっていますし、日本旅行に来るだけのおカネも知性的好奇心も持っているはずです。かれらを受け入れるプログラム、すなわちこれこれを満たせば日本での就労が可能ですよ、といった情報を整理して広く広報するほうが、移民の自然な受け入れにつながるはずです。 ただし、彼らも3K職には就いてくれないでしょう。

#1.人類超長期予測 ジェニファーせ・D・シュバ 著 ダイヤモン社