少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

化石燃料が人口爆発を引き起こす。

スモッグの中で子どもは生まれる?

 日本の人口動態を歴史的に振り返りますと、関ヶ原の合戦(1600年)の頃には、1千万人程度であったと推計されている人口は、おおよそ300年後の1872年(明治5年)には、3480万人になっていました。300年で3倍になったのです。

それが1968年にはさらに1億人を越えました。3倍になるのに100年しかかかっていません。つまり人口の増加ペースは3倍に加速したのです。この人口増加を後押したのは、工業化すなわち化石燃料の消費だったでしょう。こうした化石燃料の消費と人口増加の相関関係は、グローバルに見てもまったく同じです。定住農耕から工業化への移行が人口を加速度的に押し上げています。産業革命といえば、蒸気機関を連想させますが、それとならんで薪炭から化石燃料へとエネルギー革命が起きていたわけです。

さらに化石燃料から石油の消費によって、日本の人口は増加フェーズの最終局面に達します。それが人口1億人を突破した経済高度成長期でした。増加トレンドに延長線を引いて、「このままでは、しかじか年後には日本の人口は2億人を突破する。」という予測がマスコミ上での主流派の意見でした。その頃は、まさしく「東京には空がない」状態でした。東京に限らず、日本中の大都市圏は光化学スモッグに覆われていました。このスモッグは、smokeとfogの合成語です。ロンドンでは、産業革命の1世紀も前から、石炭の消費によって大気汚染が進んでいたわけです。それと同時に、当時のイギリスやフランスでも、人口が急増フェースに入りました。

 

大気汚染地域の出生率は高い

 化石燃料の消費と関係が深い大気汚染レベルと出生率の関係を、地球規模でみてみましょう。まず大気汚染の程度を計る指標として、今日ではPM2.5の濃度がよく用いられています。これは空気中の微小粒状物資のことで、「今日はピーエムがすごいですね。」など、日常会話のなかにすっかり溶け込んでしまいました。このやっかいものの発生源は、化石燃料のほか、火山や油井それに越境汚染などがあります。そのほか、空気中での化学反応による2次的な影響も受けています。

 

 

グラフデータ 出生率世界銀行2020年 、 PM2.5濃度:WHO世界保健統計2022年版

さて、PM2.5濃度と出生率の関係を地球規模でみますと、正の相関関係があります(相関係数0.518)。

PM2.5の世界平均値は(31.2μg/m3)ですが、先進国は20以下で出生率2.0のマスに折れ重なるように収束しています。

一方で象徴的なのは、PM2.5濃度が世界で最も高いニジェールで、出生率が最高を示していることです。もうひとつニジェールとよく似た国名のナイジェリアも、グラフの右上すなわちPM2.5が高く、かつ出生率も高いグループに属しています。この両国は、西アフリカのニジェール川流域に位置して、現在の人口激増地帯です。人口は、ニジェール2500万人に対して、ナイジェリアは2億人を越えています。中位数年令は、それぞれ15才と18才です。この中位数年令とは、「全人口を年令順にならべたときに、中央で人口を2等分するときの境界点にある年令」とされます。つまり両国では、人口の50%が、それぞれ15才以下と18才以下ということです。ちなみに世界1の高齢化国の日本のこの値は46才です。見方を変えりますと、先の両国では、女性の半数が、これから出産期を迎えるということです。

両国ともに人口の半数以上が、自耕自給の農業に従事しているようですが、一方では工業化が始まり化石燃料の消費が上がっているのでしょう。ニジェールとナイジェリアは、それぞれフランスとイギリスの旧植民地で、それぞれフランス語と英語を公用語としています。英語圏のナイジェリアが先にグローバル経済に乗っているのかもしれません。座標上で先進国側に寄っているからです。

そのほか、ニジェールの方が、内陸に位置していますから、空気の動きが悪く、強い日光エネルギーを長時間受けて、大気汚染を増幅して実際の排出量よりも、いくぶんかは高い値になっていることも考えられます。またナイジェリアからの越境汚染も加わっているかもしれません。しかし両国を同じ地域とひとくくりにしますと、化石燃料の使用量が多く、出生率が高い地域であることに間違いはありません。化石燃料が、人口爆発を起こしているのです。

ではすでに2世紀も前に、化石燃料による人口爆発を経験したイギリスやフランスはどのような人口対策をとったのか。それは移民政策と産児制限です。フランスは当時の欧州では群を抜いて高かった出生率に歯止めをかけました。一方のイギリスは産業革命による武器の近代化をすすめ、植民地を広げました。現在、イギリス以外で英語を公用語とする国は、こうして形成された大英帝国の植民地だったということになります。

 この2カ国をモデルとして、後追いで工業化を推進したロシア・ドイツ・イタリア・日本では、人口の増加圧力を逃がす植民地はすでになく、社会不穏を醸し出し、動乱や戦争に向ったことは、すでに世界史に示されています。こうした人口圧力による動乱を避けるために、ニジェール川流域から言語が通じるイギリスやフランスへの移民が増えるのは、当然の流れでしょう。

トレンドからの外れ値を示す国

グラフ中でPM2.5濃度が高い3カ国は、ニジェールのほか、ネパールとカタールです。ネパールは、工業化が起きているというよりも、隣国インドからの越境汚染の影響が強いのではないでしょうか。またカタールは油井由来の可能性があるでしょう。

一方には、先進国並みのクリーンな空気を保ちながらも、比較的に高い出生率を保っている国々があります。ほとんどが南大平洋の島々です。産業は1次産業の上に観光業の3次産業が乗っている構造でしょう。2次産業はなく、島ですから、自動車が入れる道路も限られている。したがって、PM2.5濃度は低く人間の生存には恵まれた自然環境なのですが、平均寿命から見ますとLE70sです。寿命と出生率は反比例関係がありますから、先進国に比べると短い寿命に見合った高い出生率を維持しているのでしょう。