少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

なぜ化石燃料は 人口爆発を起こしたのか。

大型動物ほど、寿命が長い。

 動物の寿命は、単純な正比例ではありませんが、体重に相関する傾向を持っています。たとえばシカやウシ・ウマよりもゾウが長く生きます。地上で最も長生きする哺乳類はゾウで、寿命は70年を超えると言われています。

 また体重によって規定された動物たちの寿命は、変化していません。人間に飼育され飢えるのとがないウシやウマでさえ、ゾウの寿命には、いまだに及びません。人間の寿命だけが伸びているのです。

 さてアフリカゾウの平均的な体重は4トン。人間は60㎏程度で、体重からすると人間の寿命は15年から30年程度になります。実際、ホモサピエンス誕生以来、数万年にわたり、楽観的に見ても、その程度の寿命だったでしょう。ですから寿命でゾウを越えたのは、人類時計で見ますと、つい数分前のことです。

 大型動物がなぜ長生きか。天敵がいない動物園で飼育しても、小型動物の寿命が短く、大型化するに従い長生きです。動物のサイズによる特徴で、はっきりしているのは、大型動物ほどエネルギー摂取量が多いということです。多く食べるのです。たとえばゾウは、1日に90㎏のエサを食べ、190ℓの水を飲み、90㎏の糞尿を排泄します(#1)。

 では人間もゾウ並みに食べて排泄しているかと言いますと、エネルギー源が、食物だけではなく、いわば化石燃料だということです。そして排泄物が、PM2.5や二酸化炭素だということになります。人類はもとも木を燃やし火を扱えるようになってから、すなわち食物以外のエネルギーを使用するようになり、暖をとり、煮炊きを始め、天敵を追い払い、さらに焼き畑を覚えて寿命は伸びたはずです。そこからさらに、古の樹木や微生物の脂肪分である化石燃料を掘り出して本格的に使用するようになり、子は育ち寿命は伸びて、人口爆発を起こしたということです。これが工業化の時代と位置付けることができるでしょう。

石炭がもたらした目に見える生活改善

石炭が燃える石であることは、紀元前から世界各地で知られていました。ただ燃え出すと尽きるまで止まらない、黒鉛を出して悪臭を放つなどの欠点があり、日常の屋内での使用には向いていませんでした。しかしすでに13世紀には、イギリスで本格的な使用が始まったのです。イギリスは、建国時に森林を切り開いて牧草地を開墾して以来、今日まで森林率が低いのです。労働者層は、薪炭を買うことができず、石炭を使用し始めました。当初は薪を拾うように、露出している部分を露天掘りしたのです。

 これでともかく暖がとれて、煮炊きができるようになりました。意外なことに、粗末な家内も顔も煤だらけの民衆の方が、ペストにかかる率が低かったともいわれています。これは硫黄成分かも知れませんが、排煙のなかに殺菌効果を持つ物質が含まれていたのでしょう。

 民衆には、学も財もありませんが、知恵があります。やがて1世紀、ほぼ3世代もすると、石炭用のコンロができ、暖炉は日本の囲炉裏のように部屋の中心部にあったのが、壁際に移動します。こうした改造を可能にしたのは、レンガでしょう。レンガは、もともと製造に大量の薪炭を必要とした高価な商品で、民衆には縁がないものだったのが、品質はともかく、石炭で大量に安価に焼き上げることができるようになりました。住宅環境が良くなりますから、死亡率は改善し、世代を追うごとに、子どもも老人も生き延びる率が高くなったでしょう。

 石炭の使用量が増えるに従い、露天掘りの抗は深くなり、かつ地層に合わせて水平に掘り進まなければいけませんでした。ここで大きな問題が2つ発生します。石炭は湿地の植物の化石ですから湧き出る水の処理と、石炭の運び出しです。当初は人や家畜による汲み出し運び出しでしたが、やがて民衆の知恵を越えた発明家が登場します。まずはニューコメンです。かれは蒸気圧を利用したポンプを発明して「炭鉱夫の友」という商品を売りだします。深さ30m程度までの対応型です。しかし石炭の需要は飛躍的に上がり続け、坑道の入り口は50mを越えるようになりました。やがてこの蒸気機関の発想はワットによって改良されました。

 興味深いことに、産業革命当初には、蒸気機関が燃料である石炭を求めたわけではなく、反対に石炭が蒸気機関の開発を促したのです。

 また坑道からの運び出しには木製のレールをひいたトロッコで、子どもたちが狭く暗い坑内で使役されたりしました。地上に上げられた石炭を敷地内で運ぶために、坑内の木製レールを鉄製にして、ワットの蒸気機関に曳かせたのが、炭鉱技師のジョージ・スチブンソンで、鉄道網として世界に普及するようになったわけです。

 製鉄も、薪炭を用いて古くから行われていました。このエネルギーを石炭に替えると、不純物が混入して使いものになりませんでした。これもコークスの精製によって改善しました。樹木から木炭を作るように、石炭を乾留させる製法です。不純物が蒸発したあとには穴の開いたコークスができるわけです。炭鉱内の労働とは異なり、コークス工場では力は要りませんから、すでに多くの女性が働いていたわけです。しかしこの蒸気がコークス工場の労働者の健康を蝕みます。

 やがてこのコークス工場で排出される煤煙を分析する科学者たちが台頭してきます。もっとも発達したのは現在のドイツ沿岸部です。幾種もの分子の中で、ベンゼン環が着目されました。理科系嫌いを作るあの「亀の甲羅」六角形です。しかしベンゼン環をもととする有機化学工業は、衣服の染料に始まり、繊維や消毒薬のフェノールついには、世界初の抗菌剤であるサルファ剤もすでに第二次大戦前にはドイツで完成しています。やはり石炭の煤煙の中の硫黄成分に抗菌効果があったのです。

まとめ

 化石燃料がなぜ人口爆発を起こしたのか、ここまでをまとめますと、まずゾウ並みにエネルギーを消費し、生物学のセオリーに沿って、長生きするようになったのです。それはなぜか、目に見る変化としては、住宅や衣類などの生活環境や物資が改善し、衛生や栄養それに医学も飛躍的な発展をとげ、当時の問題であった感染症による死亡率を減らしたからでしょう。

 さらに今日の労働衛生からしますと劣悪な環境ながら、女性や子どもも賃金を稼げるようなり、親家庭や限られた農地での、食料や最低限の生活物資の供与だけの報酬に頼らず、なんとか自活できるようになったからでしょう。

 さらに産んだ子は育つのだと認識するには、すくなとも1世代はかかります。農耕時代と同じように、多くの子どもを産みましたから、出生数は増えも寿命も延びて、人口はS字カーブを描いて増加したということになります。