少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

扶養力の低下

減り続ける「世帯人員」

 出生率の低下が社会問題になり、少子化対策が国政でも議論されていますが、生まれたとして、子育ての基本的な単位である家庭の養育力が脆弱です。それは単に養育費用の問題だけではなく、家庭内人手不足なのです。

 ところで「一家離散」「家庭崩壊」といいますと、何か事情がありそうな家族のイメージですが、実は日本の平均的な家族像と重なります。まずは下の図を提示します。

増加が続く単独世帯と「ひとり親世帯」(制作:総務省統計局)

これは国勢調査に基づく家族型の推移を表しています。長らく標準家庭といわれた、「夫婦と子ども2人」の核家族は、いまでは全体の25%しかありません。代わりに増加傾向を示し40%に迫りつつあるのは、単独世帯です。いわゆる「おひとり様」ですから、「家族」という括りにすら入らず、世帯というしかありません。

 こうした単独世帯の増加を反映して、1世帯当たり人員は減り続け、全国平均は 2.21 人で、もっとも少ない東京都では 1.92 人ですから、もはや平均値すら複数ではありません。次に住宅事情をみますと、全世帯の44.6%が「共同住宅」に住んでいます。全国でこの比率が最も高い東京都ですと、70.3%に上ります。一方の「一戸建」の割合が最も高いのは秋田県で 80.7%です。

 以上から日本の新たな標準世帯をイメージしますと、地方部では子どもが巣立って久しい戸建てで高齢者の夫妻か単独世帯で、都市部では古い団地に高齢者・ワンルームマンションに若年者の一人暮らしです。

増加傾向の「ひとり親世帯」

 ここで家族別類型の図にもどりますと、子どもがいる世帯は、「夫婦と子ども」と「ひとり親と子ども」に分けられます。緩やか変化ではありますが、夫婦世帯が減少し、ひとり親世帯が増加傾向にあります。これら子どもがいる世帯のうち、厚労省による、ひとり親世帯に関する詳細な調査がありますので、ひとり親世帯に焦点を合わせます。ひとり親世帯の約90%が母子世帯です。これは女性側が子どもを引き取る割合が多いことを反映しているでしょう。この中には、10%の未婚の母世帯を含みますが、 母子世帯になった理由は、離婚「生別」が 93.5 %で最も多く、「死別」が 5.3 %です。一方の父子世帯になった理由は、母子世帯同様に「生 別」が最も多く 77.2 %ですが、「死別」が 21.3 %と母子世帯に比べて高くなっています。 

 つぎに就業状況をみますと、母子世帯の母の86.3 %が就業しています。調査時点の雇用形態は、「正規の職員・従業員」が 48.8 %で、 「パート・アルバイト等」が 38.8 %となっています。こうした就労による平均年間収入は、236 万円になっています。

一方の父子世帯の父の就業状況をみますと、88.1 %が仕事に就いています。雇用形態は、「正規の職員・従業員」が 69.9 %で、「自営業」が 14.8 %、「パート・アル バイト等」4.9 %です。こうして、 父子世帯の父は、496 万円となっています。

 母子世帯と比べますと、正規雇用と自営業の比率が上がりますが、これは母子・父子世帯による差異ではなく、社会全体の雇用状況の男女差を反映しているでしょう。

 離婚した相手からの養育費はどうなっているのでしょう。 養育費の取り決め状況は、「取り決めをしている」が 母子世帯で 46.7 %、父子世帯で 28.3 %となっています。 取り決めをしていない最も大きな理由は、母子世帯では「相手と関わりたくない」

が 34.5 %と最も多く、次いで「相手に支払う意思がないと思った」が 15.3 %、「相手に支払う能力がないと思った」が 14.7 %となっています。

一方、父子世帯では「自分の収入等で経済的に問題がない」が 22.3 %と最も多く、次いで「相手と関わりたくない」が 19.8 %、「相手に支払う能力がないと思った」が 17.8 %となっています。

 では母子世帯は、離婚した父親からの養育費で家計を埋め合わせているでしょうか。実際の受給状況は、「現在も受けているが」が 28.1 %で、平均月額(養育費の額が決まっている世帯)は 50,485円となっています。

 養育費の取り決めをしたうちの60%のケースしか約束が実行されていません。金額の約5万円は、養育費として十分かどうかは別にして、現在の日本の賃金状況では、誠実に努力していると言えるでしょう。

 一方、離婚した母親からは、「現在も受けている」が 8.7 %で、平均月額は 26,992 円となっています。支払いの契約を履行しているのは、取り決めをしたうちの31%に過ぎません。金額的には、女性の平均賃金からしますと、こちらも誠実な額でしょう。

 次に、仕事から帰宅時間を見てみましょう。就労している母のうち「パート・アルバイト等の職員・従業員」の帰宅時間でもっとも多いのは「午後6時以前」ですが、、正規雇用では母子世帯、父子世帯ともに「午後6~8時」が最も多い。では親の帰りを待つ子どもは何歳でしょう。調査時点における母子世帯の末子の平均年齢は 11.2 歳で、父子世帯では、13.0 歳となっていて、ドアのカギを開けて自宅に入り、親の帰りを待てそうな年令ではあります。しかしこれは、ひとり親世帯になって年月が過ぎた家庭の末子が平均年齢を引き上げていることが影響しているでしょう。ひとり親世帯になった時の母の平均年齢は 34.4 歳で、 父の平均年齢は 40.1 歳です。その時の末子の平均年齢をみますと、母子世帯では 4.6 歳で、父子世帯では 7.2 歳ですから、日没後の留守番は不可能です。それどころか、母子世帯では保育園へのお迎えが必要になります。

養育費は、社会的な諸制度を利用して乗り切ったとしても、家庭内のマンパワーが不足しています。やはり親と同居する家庭が一定割合で存在し、その割合は、父子世帯の方が高い。具体的には、母子世帯の平均世帯人員は、3.20 人で、子ども以外の同居者がいる世帯は 35.2 %で、親と同居する世帯は 24.2 %となっています。一方、父子世帯の平均世帯人員は 3.42 人で、子ども以外の同居者がいる世帯は 46.2 %で、親と同居する世帯は 34.3 %となっています。

世帯人員が少なく、かつ専業主婦が珍しくなった現代においては、3世代同居ではなくても、近隣に住む親の人的支援がなければ、子育ては厳しいということです。事情は、かつての標準世帯である「夫婦と子ども世帯」でも同じでしょう。夫婦で正規雇用であれば、世帯収入は母子・父子家庭の合計額近くになり、恵まれているように見えます。しかし家庭内でのマンパワーが限界で、夫婦間での口論が激化しやすい心理状況にあるでしょう。

 さて以上のように世帯人員の減少は、高齢者単独世帯の増加による課題のみならず、子育て世代にも大きな影響を与えています。こうした「一家離散」傾向は、皮肉なことに、社会制度も影響しているでしょう。単身高齢者や母子世帯を支援する制度設計は、独居や離婚に誘導する副作用が一部で発生するからです。

 また住宅建設の面でも、長引く低金利政策によって、ワンルームマンションが「利回り何%」といった、金融商品であるかのように宣伝され、資産家への建設推進が行われてきたことも影響しているでしう。地方都市では飽和状態で、中心部から少し離れると、手ごろな家賃の空室が十分にあり、単独世帯を営みやすい状態です。

ところで「子どもは社会の財産であり、社会全体で育てるべきである。」という意見も一部にはあります。確かに、これは道徳的には正しいでしょう。しかし、子育ての温床は家庭であり、子どもたちは、そこで最も長い時間を過ごし、基本的な躾(しつけ)を受けるのです。つまり出生数を回復して、社会の永続性を回復するには、「家族の回復」が欠かせないのです。家庭は、また社会の最小構成単位でもありますから、「社会全体で育てる。」とはいっても、家庭がなければ社会そのものが歪に変貌しますから、本末転倒なのです。