少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

「サザエさん一家」のお得な暮らし

1人では食えないが、2人なら食える。

 少子化問題と老後問題の根は同じで、まずは生涯所得が生涯支出に追いついていないことです。これが「老後2000万円問題」として、ひと騒動になりましたし、国としては「投資しましょう。」と、すでに60年代に言われた「貯蓄から投資へ」の焼き直しを始めています。また国政選挙ともなれば、政党を問わず「誰もが安心して子育てができる、安心して年を取れる、そんな社会を実現しましょう。」と、高性能マイクで叫んで廻りますから、寝た子は起きて、老人ホームの入居者は、何事かと周りを見渡す。

 つまり、少子高齢化は暮しのありようの問題で、国政での上からの改革は騒動の割には実を結ばないどころか、かえって迷惑だということです。国政は、むしろ国民の足を引っ張らない、国民を出世の踏み台にしないだけで上出来でしょう。反対に日本人が得意とされるボトムアップの生活改善の方が、有効かも知れません。

 そのように考えてみますと、私たちの暮らし方は、貧乏で居場所がなく孤独な暮らしの方に流れているようにみえます。

 というのは独居世帯が増えているからです。これを反映して、平均世帯人員は、1960年には4人代であったのが、直近では2.37人になりました(2021年)。

所帯人員が少なくなるに連れて、煩わしさから解放されてついに孤独になるのは、分かりやすいですが、同時に貧乏になります。なぜなら、1人あたりの生活費は世帯人員の平行根に比例するとされるからです。例えば、1人暮らしの人の生活費は、1の平方根で同じ1ですから、これを基準としましょう。

 そうしますと、4人家族ですと、その平方根の2ですから、1人あたりでは0.5、つまり1人暮らしの人の半分だということになります。もしこの4人家族が、お父さんは単身赴任・お兄ちゃんは東京で学生生活・家に居るのは末っ子とお母さんだけに分離したら、生活費はどうでしょうか。1+1+1.41=3.41と、4人で暮らしていた時の倍近くになります。普通の家庭ですと、お父さんは会社からの単身赴任手当、お兄ちゃんはアルバイトによる収入が必要になるでしょう。

 さてここで何かと引き合いに出される「年収300万円」の青年の生活改善策を考えてみましょう。「投資をしましょう」と言われても、少ない収入から五公五民の年貢ですから、原資がありません。何か資格と言われても、やはり簡単ではありません。すぐできて確実なのは、やはり支出を減らすことですが、すでに自動車は持たず、自転車やビニール傘は社会の共有財産だと思っているし、近隣でカップ麺が一番安い店もすでに知っているでしょう。

 この青年にとって確実な節約は、パートナーになってくれる人がいれば、だれかと一緒に住むことです。2人ですと、先に述べましたように、生活は2の平方根の1.41で1人あたり0.7程度になりますから、300万円を0.7で割り戻しますと428万円の効果を生みます。パートナーにも同じ恩恵があります。ワンルームから2間のアパートに引っ越しても、家賃が2倍になるわけではありません。望まない妊娠はもちろん避けるべきですが、子どもを持ちたいという自然な欲求が出てくるかも知れません。

サザエさん一家はなぜ豊かなのか?

昭和世代ならだれでも知っている有名な家庭で、説明は要らないと思いますが、あらためて家族構成と年令を整理してみましょう。

磯野 波平 54才 上場企業 山川商事 課長

   フネ 50才? 主婦

   カツオ11才

   ワカメ 7才

フグ田マスオ28才  海山商事 係長 

   サザエ24才  主婦

   タラオ  3才    

 この物語の時代背景は1950年代とされていますから、和暦だと昭和30年代で、当時の総理大臣が「もはや戦後ではない。」とか「所得倍増」を唱えた時代ですから、明るい世相を反映しています。働き手の2人も商社勤務で収入も高そうです。しかしそれ以上に、おカネがかからない家庭であることが家族構成から見受けられます。まず当時は4人から5人の核家族が多かったのですが、7人ですから、当時としても大家族ではあります。家計費は7の平方根の2.64で、ひとりあたり0.4になります。かつ小学生2名と幼児1名で、現在でももっとも教育費がかからない年令です。また波平やフネの親がいません。存命なら70才を越えていると思われますが、当時はまだ乳幼児死亡率の高さが平均寿命を押し下げていましたが、1955年の平均寿命は男女ともに60才代でした。

 またフグ田家は、いつの時代でも人生最大の出費であるマイホーム購入からも、ひとまず解放されていますから、生活に余裕があるように見えるのです。当時は55才定年ですから、波平が退職したらどうなるか? それも、十分な退職金と年金があり、退職金をフネと2人の名義でふたつにわけて郵便局に預ければ、年利5%はありましたから、サザエがもう一人子どもを産んだんとしても、生活に困ることはなかったでしょう。つまり大家族は、生活コストを下げて、家庭内での扶養力を上げるのです。

 ただ気になるのは、フネは3人の子どもを産んでいますが、サザエは1人で、すでにこの時代から少子が始まっているという点です。