表題の2カ国の出生率も2.0を切っていますが、先進国では比較的に高いレベルにあります。そこで、日本では少子化対策のヒントをこれらの国々の政策の中に探そうとします。しかしながら、「傾向と対策」というような、短絡的な考え方では、立ち行かないかでしょう。彼らの社会の根本的な意向は、いわば「生活しやすい社会つくり」ではないでしょうか。その結果として、家庭が保たれ、出生率も高いということでしょう。具体的に見ていきましょう。
婚外子を増やせば、子ども数は増えるか?
確かに、日本の婚外子の比率は、先進国の中で極端に低いです。先の2カ国と比較しますと、一目瞭然といったところです。
国名 婚外子の比率(%)
日本 2.3
フランス 61.0
スウェーデン 54.5
(データ 厚生労働省 2019年)
日本で、これほど婚外子が少ないのは、「時代遅れの戸籍法のせいだ。」「いまだに私生児として、世間が冷ややかな目で見るからだ。」などの解釈をよく見かけます。表現はともかく、あながち的外れではないでしょう。誤っている可能性が高いのは、「婚外子を増やせば出生率は回復するだろう。」という考え方です。
なぜなら、いわば婚外妊娠比率は、すでにそこそこ高いからです。どういうことかと言いますと、厚労省の正式な表現は「結婚期間が妊娠期間よりも短い出生割合」。世間的な言い方はいろいろありますが、いわゆる「マタニティ婚」の比率が上がっているのです。
75年(昭和50年)ごろまでは、婚姻届けから第一子の出生届けまでの期間は、ほぼ全例で、10か月を超えていましたが、今やこの期間で頻度が最も高いのは6ヵ月です。こうしたマタニティ婚比率は1999年から10年間は、25%を超えていましたが、やがて減少傾向になり、2019年には18.4%になりました。もしこれだけの人たちが、婚姻届を出さなければ、そのまま婚外子としてカウントされますから、日本の婚外子比率も上昇しますが、出生数は変わらない。すなわち少子化対策にはならないということです。
ところで、このマタニティ婚は、日本国内においても地域差があります。九州・沖縄や東北で多く、首都圏や関西で少ないのです。そのことと相関するかのように、九州・沖縄の出生率は高く、首都圏や関西では低い傾向を示しています。ここで、出生率が高い5県と低い5都府県の、マタニニティ婚比率と出生率の関係をみてみましょう。
やはりマタニティ婚の比率が高い地域は、出生率も高い傾向を示しています。しかしながら、いくら「率」が高くても、掛け算の相方である出産可能な女性人口が少ないので、出生数は際立ってはいません。
さて両指標ともに最も高い沖縄県の、マタニティ婚(婚外妊娠比率)と出生率を見ますと、それぞれ30.8%と1.82ですから、先進国レベルに達しています。厚労省の統計によりますと、そもそも結婚までの平均交際期間は4から5年でお互いをよく知っていますから、マタニティ婚といっても、いつ結婚しても良いカップルである場合がほとんどです。すなわち妊娠と結婚はどちらが先でも、大した問題ではないのです。
ではなぜ日本では婚姻届けを出すのでしょう。それはその方が面倒が少ないからではないでしょうか。未婚のままで子どもがいるカップルになると、実際はどうであれ、当人たちは面倒なことになる、不利益を被ると思っているのでしょう。実際に多くのマタニティ婚が発生する現実を踏まえますと、実質的あるいは精神的な不利益が存在しているでしょう。
いっぽう、フランスやスウェーデンでは、まずは子どもの権利として、出自による差がない。保育園や幼稚園は完備され、初等教育から高等教育まで無料あるいは低価で提供されます。もちろん、だれもが結果平等に安価な学費の大学に進学できるわけではなく、そこには厳しい競争があるわけですが、希望するならその競争にアクセスできる環境が可能な限り整えられている。つまり親への支援というより、子どもの権利保護という効果があるのです。
もちろん、親の側にも、婚姻か否かにかかわらず、女性を尊重する基本的な価値観が制度化され、子どもが生まれて数年間は法令によって雇用が保障されている。つまり、婚姻届けを出さないことによる不利益は生じない。そうした人間の暮らしを支援するという社会通念や法令の上に、婚外子を持つカップルが増えて、生活しているといえるでしょう。
つまり、婚外子の多寡(たか)は、人々の生活を重視しているか、あるいは国家による国民の管理統制を重視しているかの差で、付け焼刃でそこだけ真似ても、魂胆どおりになるとは限らないということです。