少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

近隣諸国に、労働者を送り出す余力はもうない。

アジア全域で、少子化が進行中

 人口動態の変数は、周知のとおり出生数・寿命・移動の3つです。先進国共通に出生率の減少と人口減少に悩まされているわけですが、それなら出生数の回復策よりも、移民の受け入れが手っ取り早いのでは、ということになります。

 実際にフランスを始め、ヨーロッパ・北米それにオーストラリアでも、出生率と人口の減少を抑制できている要因のひとつとして、「移民の受け入れ」があげられることが多いです。いよいよ日本も、という声は多いですが、日本に労働者を送り出してくれる国は、あるでしょうか?

 技能実習制度が国連や米国政府によって「人身売買」あるいは「奴隷制度」の烙印を押されて、世界に流布しましたから、「廃止見直し」ということで、まずは有識者会議が開かれているようです。しかし魂胆は変わらず、低賃金労働者の穴埋めをさせようということですから、行きつく先は同じでしょう。

 ところで安部晋三・元総理が「移民政策は取らない。」と国会で明言していましたから、日本には移民はいないのです。そもそも「移民とは」というと、神学論争になりますから、「外国人労働者」の受けれと、限定しましょう。私たちが、実際の入国ビザを確認することはありませんが、外見と名札からして、外国人と思しき人たちが働いているのは、コンビニなどで日常的に目にしています。外国人労働者は、目の前に明確に存在しているのです。

 では、はやくも壁に付き当たった「技能実習制度」による外国人労働者は、どれくらい居るのかといいますと、2022年6月の調査で、33万人です。出身国の56%がベトナムで、月収は15万円から20万円(厚労省)。日本の就労人口は6900万人ですから、人数としては全体の0.5%程度ということになります。賃金自体は、日本は今や先進国としては、世界的に有名な低賃金国ですから、日本国内での基準でみますと、相対的に極端に低いわけではないでしょう。問題なのは、本国からの渡航費や現地仲介業者の手数料などの借金を抱えて、全部とは言いませんが、ブラック事業所で働かされているということでしょう。21年には、7000人か“逃亡”しています。つまり辞職することもできないわけですから、まさに人身売買と言われても抗弁の余地がありません。それからもうひとつは、この制度の元締め役は財団法人・国際研修機構(JITCO)ですが、歴代理事長は元検事総長を始め、元検事長が占めていることです。法務省の元実務者たちが、奴隷制度を築きあげてきたとも言えます。したがって、難問は、元検事長にだれが法令とくに労働基準法を教えるのかということでしょう。

 さて、技能実習制度による外国人労働者は、33万人程度で、日本の中規模都市の人口レベルですが、条件をつけず「外国人労働者」としてみますと、総数182万人と、大規模な政令指定都市人口なみで、神戸市や福岡市の人口を超えています。

 また全就労者に対する比率も2.6%に上昇します。各職場平均で、39人に1人の割合ですから、結構見かける頻度になるでしょう。

 外国人労働者が、どこから来日しているのか、詳しく見てみましょう。

資料:「外国人雇用状況まとめ」2022年10月 厚生労働省、 GDP出生率世界銀行2020年

表は、全外国人労働者に占める国別の比率と、その国の「ひとりあたりのGDP(以下、GDP/人と表示)」それから、合計特殊出生率を書き込んであります。なぜ、このふたつの指標を入れたかと言いますと、まずGDP/人はその国の所得水準と相関しますし、出生率は、同じように送り出す国々の労働力の将来推計の目安になるからです。

なぜ日本で働くことにしたのか。日本のアニメが好きだから、なんとなく好感が持てるから、といった理由も、いくらかあるでしょう。しかし働くとなれば、同じ仕事をしても本国との給与の差が大きい、つまり稼げる。さらに本国では労働力は余っていて、思うような稼ぎの仕事は少ない。こうした事情が、出稼ぎの背景にあるからです。

さて、かつて外国からの労働者の受け入れが本格化した90年代は、中国からの流入が圧倒的だったのですが、2017年ごろから、比率・増加率ともにベトナム国籍が1位になっています。

なぜ中国人が減ったのか。それは表にあるように、まず、GDP/人が上昇したからでしょう。節目の1万ドルを超えています。農村部を除いて大都市部だけに限れば、2倍以上になるかも知れません。また出生率も、2.0を切っていますから、やがて中国内の労働力が危うくなるということです。それでも2位の比率を保っていますが、就労資格は、「技術・人文・国際業務」といった分野です。単純作業に従事して、独特の送金システムで本国の実家に仕送りするといった光景は、もう一世代前の話です。

現在では、たとえば本国の不動産会社の日本支社に勤務し、北海道や話題になった沖縄の島を始め、日本の不動産を爆買いしているわけです。それを本国の資産家に転売する、あるいは本国からの旅行者や滞在者に賃貸する。こうした仕事が、「国際業務」のひとつの姿なのです。つまりはかつてとは比較にならないくらい、ガッポリ稼ぐようになったのです。

 中国の後を引き継ぐように、外国人労働者比率1位のベトナム人は、就労資格も「特定技能・技能実習」ですから、抜けた中国人の完全な穴埋めでしょう。

ところが昨今ではチャイナ・リスクが喧伝されて、生産拠点の一部をベトナムに移転する動きがあるとのレポートも散見されますから、ベトナムも豊かになり、日本への出稼ぎには、魅力を感じなくなるでしょう。さらに出生率が、2.0を切りつつありますから、やがて国内で人手不足になってきます。つまりベトナムからの、さらなる労働者の流入は見込みにくいということです。

 ブラジル人の比率も、変わらず一定数ありますが、これは新たに流入しているというよりも、「永住権・定住者」といった身分系在留資格による就労です。つまりは、かつてのバブル期に日系人として来日した人たちの日本生まれ子ども世代が、就労しているということです。ペルーも似たような事情でしょう。

 しかし今では中南米の経済事情は様変わりしました。チリ・メキシコ・コロンビア・コスタリカOECDに加盟し、先進国の仲間入りをしています。OECD加盟国は、かつて“金持ちクラブ”と揶揄されていましたが、今や、少子高齢化が進行する“老人クラブ”で、どこも人手不足です。こうした新たな先進国は、ブラジルやペルーからは、近隣国で言語の問題もありませんから、もうわざわざ日本には来ないでしょう。

 残るは、フィリピンとインドネシアです。ところが出稼ぎ大国のフィリピン人は、英語の習得者が多いですから、欧米を目指すでしょう。特に看護・介護といった分野は、国際的に人材の奪い合いになっています。ドル計算での賃金も、欧米なら日本の3倍にはなるでしょう。つまり、しぶしぶ日本に来てくれるのは、おそらくこの欧米コースから外れた人たちだということです。

 かわって、インドネシアの過去40年間ほどの人口推移をみますと、1億4749万人(1980年)から2億7743万人(2020年)へと、ほぼ倍増しました(世界銀行;WB)。

 しかし、インドネシアも新興工業国になり、所得の増加ととともに少子化の流れに入ったのでしょう。出生率は2.0以上をまだ保っていますが、かつての人口増加の勢いはもうありません。これまでの人口爆発の中でさえ、来日者数が限定的であったことからして、これまでのトレンドを越えて、日本をめざす若者が増える気配はないのです。 

  また、ネパールも少子化が進行しています。若い労働者が国外に出るために、外貨は入ってくるものの、国内産業が発展しないのです。日本の経済高度成長期の地方部と似たようなものです。先進国とは異なる理由での少子化が進行していますから、今後の来日者は先細りになるでしょう。またインドの経済発展が続けば、日本まで来なくても、職場は庭先に出来ます。 

近年では、技能訓練生を求めてミャンマーまで足を伸ばしているようですが、かの国は周知のとおり政情不安ですから、就労どころか日本に入国すると同時に、難民申請が出されるかも知れません。かつ、出生率も2.12ではありますが、乳児死亡率は日本と比較にならないくらい高いはずですから、この出生率で自国の人口維持がやっとのレベルでしょう。つまり、これ以上の外国人労働者の増加は、送り出し国の事情からして、期待できそうもありません。

 ただ、すでに入国している人たちの2世・3世は生まれてきますから、いくつもの外国人街が形成されて、外国人労働者の逓増はあるでしょう。

 

  台湾・韓国からの大量避難民が来日する可能性

  現状で、日本に労働者をさらに送り出せそうな国は乏しいのですが、有事となれば、話はまったく変わります。

 まずは一般論ですが、生まれた国から他の国に移動定住している人の割合は、世界人口の2から4%(2億7200万人)で過去50年年間ほとんど変化していないといいます(#1)。近隣国への移動が一般的で、地域的にはアフリカ大陸内での移動が最も多い。2023年4月現在、スーダンで内戦が発生しています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によりますと、すでに10万人が近隣諸国に移動し、最終的に80万人に達すだろうと、報道されています。

 さて現在、台湾海峡が緊迫し、安部元総理が「台湾の有事は日本の有事」と世界に公言し、岸田総理もウクライナに続いて、台湾政府に「必勝しゃもじ」を贈る勢いです。有事の場合のシュミレーションは軍事や輸送航路に偏り、見逃されているのが、避難民の発生ではないでしょうか。

 ウクライナスーダンの事例からみて、両陣営ともに、外国人や非戦闘員の避難のための数日の停戦には合意するはずです。さて台湾の人口は2326万人ですが、このうちどれだけの人がどこに避難するかです。北米・欧州・オセアニア・日本などの先進国が候補に挙がるでしょう。台湾の一人あたりのGDPは日本と変わりませんから、おしなべて裕福です。さらに富裕層に限れば、華僑をハブとした人的ネットワークを、中国本土を含め世界規模で持っているといわれていますから、世界のどこに居ても、規模が縮小されるだけでリモートワークが可能でしょう。したがって渡航費と当座の生活費の工面には困らず、行先の選択肢は多いはずです。

 「日本の有事」でもありますから、富裕層はもっと戦火が及ばない地域を選ぶでしょう。しかしながら、航空機の台数にも座席数にも限りがありますから、平均的な人々は船便で「さしあたって日本」ということで、日本へ越境する人が最も多いのでは、と予測されます。なにせ海路で100㎞北上すれば日本領に入ります。天候が悪くなければ、小型漁船でも海流に乗って航行可能でしょう。こうした避難民は、ともすれば台湾人口の5%にあたる100万人単位になり、そのうちの何割かが、有事後の台湾情勢によっては、日本に定住する可能性があるでしょう。ただし、日本が求める低賃金労働に就く比率は、日本人同様に極めて低いはずです。

 さらにもしや、この有事が引き金になり、中国大都市で民主化運動が再燃し、現政府が統治力を失えば、避難民の数は千万人単位になるやも知れません。

 まったく同様に、朝鮮戦争が再発すれば、韓国からの避難民が押し寄せるでしょう。韓国の人口は台湾の2倍以上あり、かつ対馬北端と朝鮮半島南端の距離は50㎞で、天気が良ければ肉眼で島影が見える近さです。台湾からの避難民の2倍以上が見込まるでしょう。

 こちらも、北朝鮮側の体制が崩壊すると、船が傾くほどの、大量難民が押し寄せて来るでしょう。もちろん海上で押し戻すことは、人道的にも方法論的にも困難です。

 こうした避難民による定住人口激増の想定は、荒唐無稽に思えるかも知れません。しかし起こる確率は、台湾有事や朝鮮戦争再発の確率と同じなのです。なぜなら、戦争や動乱があれば、必ず避難民は発生するからです。

 出生数や死亡数の変化による人口の増減の予測は、これまでのトレンドの延長ですから連続的で緩やかですが、戦争にともなう移動による人口増加は、非連続で急激な変化をもらすことになるでしょう。

 移民政策に舵を切りつつある日本としては、戦火はもちろん避けるべきではありますが、こうした避難民の収容施設やその後の定住先の青写真は持っておいた方が、パニックを軽減して、“待ちに待った”大量の移住者を受け入れることができるでしょう。

 しかしそうしたことは単なる仮定で、誰も望んでいないでしょうし、発生する確率も高くはないでしょう。

 現実的には現在、多くの外国人がいわゆるインバウンドとして来日しています。

こうした若者のなかに、日本に長期滞在したい、日本で働きたい、学びたいという人たちが一定数いるはずです。なぜなら、若者は“自国以外のどこかへ行きたい習性”を持っているからです。最初のきっかけは旅行だったというのは、世界中によくあることでしょう。

 こうした人たちは、誤解にもとづくことだとしても、まずは日本に好感をもっていますし、日本旅行に来るだけのおカネも知性的好奇心も持っているはずです。かれらを受け入れるプログラム、すなわちこれこれを満たせば日本での就労が可能ですよ、といった情報を整理して広く広報するほうが、移民の自然な受け入れにつながるはずです。 ただし、彼らも3K職には就いてくれないでしょう。

#1.人類超長期予測 ジェニファーせ・D・シュバ 著 ダイヤモン社