少子化の正体

「80・2.0の壁」とは?

戦後2回のベビーブームでわかる出生数増加の要因

迷路に入った少子化議論

 

 政府として深刻な問題としてとらえているのか、または生活苦を訴える世論への迎合か、はたまた異次元の増税への布石なのか、少子化問題が急に遡上しています。

 それに対して、専門家や文化人がそれぞれの思い付きの考えを、ネット上でも述べておられます。30年前と顔ぶれが少し異なるだけで、言っていることは不思議と同じです。たとえばこんな感じです。「教育費の高騰を始め、子育て費用の増加」「女性の社会進出と子育ての負担増」「結婚・子育てに一義的な価値を見出さない意識の変化」など。

 対策としては出生数回復に成功しているフランスの事例の列挙です。フランスでは、教育費がほぼ無料・婚外子の比率が高い・移民の受け入れ・N分N乗方式による税負担の軽減などです。

 結婚・出産子育てには、その国の宗教観や精神的風土など、やっかいなものが複雑にからんでいるでしょう。中世の西洋では、正式な婚姻には教会の承認が必要とされました。現在の日本でいう法的な結婚は、「婚姻届け」ですが、戸籍法は男性中心に形成されています。夫婦別姓がなかなか認められない理由もここにあるでしょう。

 このように精神的風土や法令まで広げますと、なぜ出生数やその元になる婚姻数は増減するのか、そのメカニズムに到達するのは容易でありません。メカニズムの見当が付かなければ対策など立てようがないのです。

 実は外国の事例を探さなくても、戦後の日本には2回のベビーブームがありました。少子化対策のヒントは足元に転がっているわけです。ただ、戦後すぐのベビーブームは「男たちが戦地から復員して来たから」では居酒屋談義ですし、「第2次ベビーブームは先のベビーブーム世代が出産期だったから」では、少し知的な世間話でしかありません。例えば母親世代が多いとベビーブームになるなら、ささやかにしても「第3次ベビーブーム」が起きたはずですが、現実に起きたことは生涯未婚率の増加でした。

 そのほか、少子化の原因が子どもに対する価値観や子育て教育費の高騰なら、ブームの頂点を境にそれらが急変していなければいけません。たとえば「子ども、かわいい、欲しい」から「子どもうるさい、カネがかかる」に、ブームの頂点での変化が確認できないと、信憑性が乏しいのです。これらの要因を否定するわけではありませんが、少子化のメカニズムの解としては再現性がないのです。

再現性のあるメカニズムに近づく一つの方法が、異なるかに見える複数の事象のなかに共通項を探すことです。中学の数学で学習した「集合」の考え方です。公約数の探し方にも似ているかも知れません。さっそく描くと以下のようになります。

ベビーブームの背景は「国民所得の増加」だった。

ベビーブームの基盤は所得の増加

戦後2回のベビーブームは、それぞれ戦後の経済復興期と高度経済成長期にあたり、マクロ経済成長を基盤とする国民所得の増加があったということです。

しかし、ここで地球規模での人口動態に視野を広げますと、「経済成長が出生数を上げた。」とするこの仮説に否定的な現実がすぐ出てきます。それは鈍化傾向になってきたとはいえ、アフリカのサハラ砂漠以南の国々や南アジアなど、むしろ経済が停滞している地域で、出生数は増加して人口爆発が起きているということです。

あまり良い表現ではありませんが、わかりやすく言いますと、むしろ「貧乏・子沢山」だということです。

 この矛盾を解決するには、人口動態の大きな要因である「出生数」と「平均寿命」のふたつの要素を同時に考える必要があるでしょう。このブログを通しての、私の考え方を まとめますと、つぎの概念式になります。

出生数×平均寿命∝生活資源(GDP)

出生数と平均寿命は反比例しますから、発展途上国における出生数増加の要因の一つは平均寿命が短いことにありますが、この要因につきましては、また項を改めて、詳しくみていきたいと思います。

さて、GDPが増加して、それらが給与や福祉政策で人々に配分されれば、少なくとも出生数か平均寿命のどちらかは伸びるということです。経済成長が著しければ、ふたつのパラメーターが揃って上昇します。これが起きたのが、戦後2回のベビーブームであると言えます。

次回から具体的にこれらのベビーブームの背景を探っていきます。