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「少子高齢化」時代の戦争( 3/3)- ウクライナの人口動態と徴兵

ウクライナの人口動態と徴兵

 大学生がまだ知識人とみなされていた時代には、ロシア文学が読まれ、子どもたちもそれとは意識せずロシア民謡を歌っていました。それでも東西冷戦の時代でもありましたから「ロシア嫌い」は常にかなりの割合でいました。それが今回の侵攻で、少なくともネット上では、モスクワやキエフ(キーウ)が白地図上のどこに位置するのかさえ、おぼつか無いにもかかわらず、ますます増えているようです。判断の根拠となる知識が乏しいのに、確たる意思を持っているのは、洗脳・扇動されている兆候かも知れません。

 さて受験前の優秀な中高生ならたいてい知っていて、大人は忘れている簡単な社会科の知識ですが、広義のロシアは大ロシア(現在のロシアの北西部)・小ロシア(ウクライナ)と白ロシア(ベラルーシ)と3つの地域で構成されています。ロシア・ウクライナの大統領の名は、日本語でそれぞれ「ウラジミール」・「ウォロディミル」と表記されますが、原語の発音が違うだけで、同じ名前だそうです。

では歴史的にいつも一枚岩だったのか、というとそうではありません。 

言語も違いますし、宗教もキリスト教系ながら微妙な違いがあるようです。家族構造もウクライナ核家族であるのに対して、ほかの2つのグループは、日本に似たような父系直系・共同体主義を継承しているようです。(5)

 ゼレンスキー大統領は「戦時の大統領」として大活躍をしていますが、平時には手腕を発揮できなかったのです。おおまかには、その前の親ロシア政権が「汚職まみれの政府」として倒されて、元コメディアンの人気者として彼は大統領に就任しましたが、今も続いているウクライナ南東部の紛争を収めて、経済を立て直すことができなかったということです。つまりウクライナは、ソ連崩壊後の混乱が持続していたといえます。

 各家庭としては、こうした状況で子どもを産んで育てても希望が持てません。民主国家の建設といっても、利害が一致していないからこそ、30年も紛争が持続しているわけです。

当然ながら国外へ出ようとする人々が戦争前から集団としていました。もともとのソ連時代から教育レベルは高く、英語を始め外国語の取得も問題がなく、かつ人種的にも目立たず米国や欧州に溶け込みやすいですから、国境の壁は低いのです。

 ウクライナの人口は、ソ連・崩壊時の91年から2020年の間に5170万人から4390万人へと、780万人、比率にして15%減少しています。(2020年 国連・社会経済部)

ほとんどが流出による人口減です。

「人口が減って何が悪い、畑が広くなっていいじゃないか。」「出たい奴は、出て行け。」日本のネット民だとこんな書き込みが多くなるでしょうが、そんなことではありません。集団としての人口流出は、経済が縮小して生存環境が悪化していることを示しています。

 しかも若くて教育レベルの高い人から順に出て行かれると、生産性はスパイラル的に落ちていきます。これはウクライナといわず、日本の地方部をみれば同じ構図を示しています。

 経済高度成長期に集団就職として都市部に流出し、その後は個人的にパラパラと郷里を離れ、いま地方部の町や村で人が集まっているのは、デイサービス施設だけです。

ところで、2014年のロシアによるクリミア併合も住民投票によって可決されています。これはいわれているように不正投票かも知れません。しかし高齢者の中には、ロシアの方が年金額が高いから、と承認した人たちも少なからずいたようです。もともと同じ国で、親戚・友人も両国間で交差しているようですので、日本が中国に併合される構図とは全く事情が異なるのです。

クリミアの人々は、半島ごとロシアに流出したことになります。つまり人間は障壁さえ低ければ、貧しいところから豊かなところへと移動するということです。

ウクライナ人口ピラミッド2020年(データ:国連 社会経済部) 


人口ピラミッドを見ますと、人口の重心はロシアと同じようにソ連時代生まれの、中年層にあります。しかしロシアと異なるのは若年層の部分が、広がるかに見えたものの、また縮小に転じているということです。これは今回の戦争以前の出生数です。現在、若い家族は国内外に分断されていますし、残っていても戦争ですから、出生数は激減しているでしょう。

この中でゼレンスキー大統領は「最後の一人まで戦う。」と宣言しています。戦争中ですから、大統領としては当然の発言でしょう。侵攻された当初、大統領は「人は足りているが武器がない。」と、援助を求めていましたが、戦闘員も60才までに引き上げないと足りていなかったのです。この戦争期間を通して西側に向かって「武器と資金の支援」を訴えています。しかも、大統領といえども彼に軍歴はありませんから、戦況を打開するための具体的な武器名は察し付かないはずですが、それを発しています。そうすると米国とNATOが、「仕方がない」というポーズで応じていますから、一国の大統領というよりも「ゼレンスキー部隊」で、大統領演説のライターとこの戦争を経営している西側の作戦本部は他にあるような構図です。

気になるのは、2023年1月現在、ウクライナ側は戦車を要求しているということです。どのように堅固な戦車でも平原では標的になりやすいですし、これは「無人化」の流れとは異なります。いっぽうのロシアはイラン製のドローンを増やしていると報道されていますから、こちらは安価・無人化の流れです。長期戦を見越しているのでしょうか。

さて、この戦争がどういう形で終結するのかは、今のところだれにもわかりませんが、終わらない戦争はありませんから、いつかその日が来るでしょう。

戦争が終われば、兵士は家族のもとに帰ります。問題は、その家族とどこで落ち合うかです。父がいる瓦礫の町に母と子が戻るか、さしあたって家族が暮らす外国へ父が行くかです。それぞれ安全に豊かに暮らせるところを選ぶでしょう。

その結果として、すでに1000万人も国外へ退避している人々の帰国流入と、新たな流出とでは、どちらが多いか。それによって人口構成は大きく変化します。 

しかし流出による人口減少が顕著だったとしても、経済の急回復があれば、第2次大戦後の日本でみらたようなベビーブームが起きるでしょう。環境の収容力さえあれば、人間といわずすべての生物の生殖能力は、あり余っているからです。

 ところがウクライナの経済状況はロシアよりも数段厳しいようです。

国連の発表によりますと、2022年のウクライナの経済成長率はマイナス36%です。ちなにみロシアはマイナス3.5%(予測はマイナス10から15%でした。)

国土が戦場になり鉄鋼所などの生産インフラは破壊されていますから、こうした数字になったのでしょう。またロイター通信によりますと、植物油用の種を含む穀物生産高は、今年は侵攻を受ける前の21年に比べて半減すると予測されています。

ウクライナの場合は戦勝しても、米国議会が債権放棄しない限り、リース・レント法での代金請求が来るでしょう。すべて無償支援ではないのです。

復興がなければ、なお一層のカオス国家になり、「これで戦争に勝ったといえるのか。」と嘆くことも起こり得ます。

(5)「第三次世界大戦はもう始まっている」2022年 文春新書 エマニエル・トッド著 (大野 舞・訳)